本棚におけるセクシーさについて

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時々、本棚というのはセクシーだなぁと思う。
ものすごく長い年月をかけて、限られたスペースを埋めて行くことで本棚の姿は変化していく。重みで歪んで行くその姿はすこし色っぽいと思う。『書物はすべて、ナツメグのように、異国から招来される香料のにおいがします』ということばを教えてもらってから、時々本棚の近くで香りを嗅ぐ。自分の生活圏外から訪れた古書から、漂ってくる「かすかな香り」を嗅ぎながら、自分の知らない世界について想ってみるのもなかなかいい。

僕の本棚は、主に文学と人文と美術デザイン関連と世界中のテーブル上で行われる遊戯関連と音楽と食文化の本で埋められていると思う。こうして自分の本棚を眺めていると気付くのだけど、大小様々・ジャンルも様々。堅苦しい本もあるけれど、ところどころに顔を出す趣味関連の本がいいアクセントになっているのだと思う。ひとは「とらえどころない姿」が本当の姿だと思うので、そういうのが本棚にじわりとにじみ出ると思う。

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本は絶対に手放さない主義。そしてデジタル化はあまり興味が無い方。小さな頃から集め続けた本達は今も数カ所に分けてそれぞれの本棚をぎっしりと埋めつくしている。その昔、雑誌のバックナンバーを全て資料として保管していたので、今も実家の自分の部屋はすべて本で埋めつくされていて、足の踏み場もないくらい。両親も僕が異常に本に執着することを知っているので、捨てないでいてくれています、感謝。
何度も何度も本を読み返す癖があるので、メインとなる生活の場所の一角を多くのスペースを使って埋めつくすことになる。それぞれ本達は本棚の奥のスペースを使って、常に2列に並べられており、「ずっしりとしたその重み」で歪んだ棚板がセクシーに感じる。
本棚の姿がそばにあること、その姿を眺めることが自分の支えになっている。旅に出る時には、本棚の前にコーヒー片手にあぐらをかいて、その「旅の夜に寄り添う本」を長い時間をかけて選び出す。眠る前に本棚からよく眠れそうな本を選び出して枕元に積み上げて、ぱらりぱらりと拾い読みしながら眠る。椅子に寄っかかって、後ろに重心を倒し、本棚に衝突し上からばらばらと何冊も落ちてくる。数十冊大型本を抜き出して、床に置き簡易テーブルを作り、上にコーヒーを乗せる。本棚の前でたまたま抜き取った本に夢中になり、そのまま立ち読みをする。本を数冊枕にして眠る。本のページの隙間から、当時付き合っていた女の子が残した秘密の手紙を発見する。本棚に寄り添う自分の生活が好きさ。

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何の映画だったか忘れちゃったけど、部屋の中の家具が一切無くて、積み上げられた本を椅子代わりにしてお客さんに座らせるシーンが好きだったな。本は家具代わりにも使用できる。そういえばポール・オースターの小説「ムーン・パレス」でも、古書をベッド代わりにして眠って、それを少しずつ読んでいくというのもあった。生活の中で現れる異形の本棚(?)の姿にゾクゾクくる。文学における最高にセクシーな本棚は「海底二万里」のネモ船長の本棚だと思う。彼の本棚にはものすごい分量で様々な本があるんだけど、世間から離れてノーチラス号で暮らす彼の本棚には「政治」と「経済」の本は一切無い。ぎっちりと埋めつくされた壁一面を覆う本棚と数々の生物標本、美術品、海底を眺める大きな窓の外には巨大なタコ、ごうんごうんと船が動く低音、異国のナツメグの香り。筒井 康隆の小説「旅のラゴス」で登場する、旅の行く末にたどり着く古都の、柔らかい光がたっぷりと差し込む書庫の姿もものすごく色っぽかった。
理想の書庫や書斎について徹底的に想像してつくりあげていくと、それはそれだけで文学として成り立つような気がする。

僕の理想の本棚のある環境は、天井までびっしりと埋めつくされた壁一面が脚立を使って登るような本棚で、近くに大きな窓があって独りがけのソファーとコーヒーテーブルを置いて、風通しの良い場所に風鈴がぶらさがっていてちりんとなるような環境がよいなと想像する。書物を手放していくようなデジタル化が流行する中で、これからも逆行して本棚を埋めつくして行こうと思う。あなたが本棚に寄り添う時に、『書物はすべて、ナツメグのように、異国から招来される香料のにおいがします』ということばをふと想像してみてください。部屋の中で、ものすごく遠くにいるような気分になるから。

タカヤ

ヒッピー/LAMY・モレスキン・トラベラーズノート好き/そしてアナログゲーマー

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