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ロンドン日記2:ハムステッドの住人 YOKO

Posted on 23 2月 2013 by

(モレスキンノートブックのページを読み返しながら、ロンドンでの思い出を書いていきたいと思います。書いているとつい長くなってしまって・・・お時間ある時にさらり読んで頂けると嬉しいです☆)

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マーゴとゲイリーが暮らすケンティッシュタウンで家庭を堪能させてもらった後、ハムステッドという町でフラットを見つけて引っ越すことになった。

ハムステッドは、ロンドン市内から地下鉄で北東に10分程度行ったところにある古い町だ。何でも20世紀初頭の「田園都市運動」により生まれた町だそうで、ハムステッドヒース(という巨大な自然公園)の緑と、ロンドンらしい赤いレンガと木の生垣で作られた街並が100年以上も維持されている。建物の外観など法律で厳しく規制されているため、駅のすぐ隣りにあるマクドナルドでさえ、入り口辺りに吊り鉢で花を飾っているから可笑しい。初めてこの町を訪ねた時、そのあまりの可愛らしさにいっぺんに恋に落ちたのだった。

私が見つけたフラットDは、コンバージョンタイプのフラットー昔の邸宅を改造していくつかのフラットに分けた家ーで、同じ建物には他にフラットA、B、Cが入っていた。内覧をした際、とても良いフラットだったので「どうしてこんな安い値段で借りられるんだろう?」と不思議に思ったけれども、入居日になってその理由を察することができた。私が引越の荷物を抱えてハムステッドのフラットに到着した時、大家さんは部下と2人がかりで、前の住人が置き去りにした荷物を片っ端から運び出しているところだった。

大家さんは片手にウィスキーの瓶を持っている。「あの、今日、入居するんですけど・・・」私は尋ねる。「前住んでたギリシャ野郎は本当に狂っているぜ!見ろよ、この荷物。全部あいつが置いていきやがったんだ・・・」。だから俺は悪くねぇ、とさも言いたげな様子だ。私は英語は上手くなかったが、合掌しながら「A RI GA TO」と媚を売ってくるこの酔っぱらいが、不真面目な人であることはよく分かった。結局、入居できたのは夕方で、真っ白のバンに全ての荷物を詰め込んで、大家さんは言った。「だから俺はドイツ製のデッカいバンが好きなんだ。何でも全部詰め込めるからな」。大量のゴミを置き去りにし、白いバンで颯爽と帰っていった大家さんは、後から分かったことだが、若い頃は有名なロックバンドでドラムを叩いていたそうだ。ドイツ製の白いバンも、本当は楽器の運搬車ではなかっただろうか。

数日して、新しい隣人の顔見たさに私を訪ねてきたのは、フラットCの住人エドワード。彼はフレディー・マーキュリーによく似た中年のおじさんで、イングランドの田舎出身のためか、英語を伝統的な方法でとても回りくどく話した。教会の布教活動に熱心で、私もよく教会で開かれるコンサートに誘ってもらったけれど、コンサート以外の何かが待っている気がして、いつも丁重にお断りした。モダンな思想が似合うハムステッドにありながら、エドワードの間合いに入ると時代が半世紀ほど古くなったように感じられた。

フラットAの住人ピーターは、倹約家で宗教家のエドワードとあまり気が合わない様子だった。ピーターはこの建物のオーナーでもあって、最上階の一番チャーミングなフラットにもう十年以上暮らしているとのこと。「うちでワインでも飲まないか」と誘ってもらった際にピーターの家を訪ねたが、室内はアンティーク調の家具で統一されていて、朝日が差し込む大きな天窓とロンドンの夜景が一望できるテラスがついていた。ピーターは昔、放送作家で一儲けしたお金でこの建物を買ったのだと教えてくれた。話題は趣味が良く、会話にはユーモアが尽きず、女性にはジェントルマン。エドワードとは気が合うはずもなかった。

そんな二人と程よい距離で付き合っていたのが、フラットCに住むダイアンだった。細身で長身、ベリーショートの黒髪が似合う彼女は、仕事は心理学者だと言っていたが、本人はいつもちょっとだけイライラしていた。ダイアンはいつも観察するように私の話を聞いてくれたが、その客観的な視線は私をよく緊張させた。その一方で、愛犬のジョディーいつも鼻をふごふご鳴らしながら歩くフレンチブルドックーの話になるとダイアンの瞳は潤ったし、離婚した弁護士の旦那さんの話になると少女のようにわがままに悪口を言った。

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ダイアンのフラットには、大きなお庭がついていて、そこにマグノリアの木が1本立っていた。「YOKO、日本は桜が美しいと聞くけれど、イギリスの春はマグノリアなのよ。私の家の庭にあるマグノリアが咲いたら、うちでアフタヌーンティーでもしましょうね。」残念ながら、その日が来る前にダイアンはもっと大きなお庭が付いているという家に、ジョディと一緒に引っ越してしまった。

ダイアンの後にフラットCに越して来たのは、アメリカ帰りのフランス人とベネズエラ人の夫婦で、フランス語しか話せない両親に、英語とスペイン語とフランス語が分かる子どもの面倒を見させており、隣人とは無関係でありたい様子だった。その後、私も大家さんの待遇の悪さに引っ越しを決めて、フラットDに新たな住人がやってきたことはエドワードがメールで教えてくれた。「YOKO、今度の住人はゲイのカップルでね、ロンドンオリンピックの開会式の振付師らしいわよ!」

ダイアンの庭のマグノリアを見ることはできなかったけれど、春にロンドンの街で咲き誇るマグノリアを見かけると、今でもハムステッドの住人たちを思い出す。もう少し一緒に暮らせると良かったけれど・・・

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Profile: モレスキンファンサイトmoleskinerie.jp[モレスキナリー]の管理人です。Twitter: @YOKOnotes 著書『モレスキン「伝説のノート」活用術』『モレスキン 人生を入れる61の使い方』(ダイヤモンド社)。モレスキンノートブックをお供にロンドンに暮らし始めて今年で4年目になりました。私の旅の話を書いてみたいと思います。

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