移動式生活「MOBILIS IN MOBILI」のススメ タカヤ・モレカウ

Posted on 11 11月 2015 by

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あなたの目の前に、突然、海底二万里のノーチラス号とネモ船長が現れ、この船での生活は衣食住すべてがそろって何不自由なく、美術や博物などの知識もたっぷりと保有し、快適な生活が送れる旨ひと通り船の説明を受け、「この船で世界を永久に航海できる。そしてまだ未解明の海の秘密を解き明かす冒険ができる。しかし二度と降りることができない」と言われたときに、そこにあなたは飛び乗りますか?

現代における移動式生活(MOBILIS IN MOBILI)というスタイルについて考えてみたい。
思想としては、現代におけるジプシーのスタイルとはどのようなものになるかというところ。常日頃、自分の理想の生活や環境やユートピアについてヒマさえあれば考えているので、割とこういう空想は好きだ。自分の理想の生活は、都市と自然を行き来するという生活がテーマになると思う。 都市における仕事や義務的なものから僕らは解放されたときに、都市にいる必要性を感じない人々は、徐々に移動を開始する。日本という国がもしも国境のない大陸続きのスンダランドだったとしたなら、寒い時期には南に下り、暑い時期には北国へ移動し、住みやすい環境をその場その場で作り、都市で起きていることを意に介さず物ともせず気にもとめず飄々と暮らしていく新しい人々が現れ始めると思っている。現代においてそれは車での移動であるかもしれない。もしくは大規模な馬での移動になるかもしれない。町でも村でもない新しい集団の単位が発生していくと思う。

例えばモンゴルでのお話。ゲル1帳は、おおむね夫婦を中心とする1小家族が住み、遊牧民たちは一般に2~3帳のゲルからなる拡大家族集団を「アイル」(「仲間」や「村」の意味もある)と呼び、アイルでまとまって遊牧を行うらしい。同じ地域で遊牧を行う複数のアイルの集合体がいわゆる部族(アイマク)と呼ばれる。部族の極小の単位がゲルに相当するわけである。テント1帳が自分が属する社会の極小の単位であるなんて非常にシンプルでグッとくる。19世紀以前のモンゴルでは、アイマクに王侯貴族がいて、隷属民まで含めゲルが何十何百も集まった大型の集落が存在していた。つまり移動する都市である。まるでヴェルヌの移動する砂漠の都市みたいだ。これを中世モンゴル語ではクリエン、近世モンゴル語ではフレーといった。

小さなころに読んだ本や映画が良い具合に影響を与え想像力を刺激してくれている。文学で言うと、ハックルベリー・フィンの冒険、宇宙船とカヌー、宝島、蝿の王、なかでも「海底二万里」は特別な本。それぞれの本が描き出すそれぞれの特殊な生活環境は僕の憧れとなって、具体的に僕の理想の生活としてしっかりと根付いている。ヴェルヌの描き出すノーチラス号での生活は「MOBILIS IN MOBILI」のことばに相応しくまさしく移動する生活の代表格である。その都市から隔絶されたノーチラス号の世界観は移動式生活に対するヒントがいくつも隠れている。物語の中では潜水艦の中での生活・美術・経済・学問・衣食住について徹底的に考えられていて刺激になる。関係ないけど、物語を僕らが創造するとき、少なくとも2種類のアプローチの方法があると思える。一つ目は、何かが過剰な部分と何かが欠落した部分のギャップのある「特殊な人間の創造」。二つ目は一般的ではない「特殊な生活環境」の創造。そのことについて徹底的に考えられたとき、そこに物語が発生すると感じる。良い意味合いで海底二万里はその二つを実現できていると思われる。

ツリーハウスはハックルベリー・フィンの冒険でもお馴染み。ケネス・ブラウワーの「宇宙船とカヌー」では、40m級の杉の大木の上に建てられたツリーハウスが登場する。よく冷えた針葉樹の森。杉の枝が螺旋階段となっていて、樹上の小屋の中ではベッドと本棚と暖房替わりの小さな古びた鉄のストーブ。ストーブの上のシュンシュンと音を立てたコーヒー。木の麓には手作りのカヌー。トイレは板の上で済まして、フリスビーのごとく力いっぱいに遠くまで飛ばすシーンが印象的。彼方へうんこがキラキラと輝きながら飛び去っていくのである。

アルチュール・ランボーの人生において、不思議な経緯がいくつもあるけれど中でも好きなのは、フランスの詩人だった彼がある日突然のように砂漠に渡り商人になってしまうという話である。おかげさまで彼が旅する姿を想像すると、何か文学的な姿の砂漠のキャンプを思い浮かべる。それは、砂漠の旅人であっても瀟洒な彼のこと、なんとなく洒落た雰囲気のある暮らしだったのではないだろうか。現代においても「Gramping」といってグラマラス(Glamorous)なキャンプ(CAMP)のスタイルというものがある。まるで砂漠の王族が過ごすかのようにコットンのテントに家具を設置して滞在するスタイルである。モンゴルでいうところのゲルやパオ(包)のような住居に近いと思う。現在、実際に購入することができるものでいうとCanvasCamp社のシブレーなどが理想に近い。

このタイプのテントのよいところは、居住空間が広く取ることができ、夫婦1組+子供1人くらいまでは理想的な広さを確保できるところにある。家具を設置して中央部分にテーブルを設置し、内側側面にストーブをインストールし快適な環境を作ることができる。最近でもテント・ビレッジなどでラグジュアリーな環境作りでもこのコットンで作られたテントが一役買っていて、アウトドアであっても快適な環境を提供し、ホテル並みのサービスを提供しているところもある。

このテントの姿を見てからというもの、読んでいる本の中で、移動式の生活をしている人々を思い描く時、つい思い浮かべてしまう。中でもガルシア・マルケスの「エレンディラ」で、祖母のために街はずれで身を売るエレンディラのテント(外には順番を待つ兵士の行列、その行列に物を売る商人の数々)、そして「百年の孤独」で登場する宝箱のチェストに氷を沈め、磁石を引きずり、絨毯に乗って空を飛ぶ、何やらガチャガチャと騒がしいジプシーたちのテントである。 最近この住居の姿にものすごく興味がある。このテントを使い、一つの移動式コミュニティを作り上げていくことが僕の当面の夢となっている。このテント1張で移動し、その生き方や生活に興味を持った人々を迎え入れ、徐々にその単位を増やしていき、移動式の村を作り上げいくこと。そしてあらゆる町や村に所属せずに、境界線に住むこと。僕はこういうことを考えるだけで興奮する。

とりあえず、想像しよう。
コットン張りのテントの両サイドに羽毛入りのふかふかのベッドを配置し、真ん中のポールには木製の小さなテーブルを置く。テーブルの上にはコーヒーの道具、ポーレックスのコーヒーミルとコーヒーサーバも兼ねたビーカー数個。床にはペンドルトンの毛布や、色とりどりのラグマットを敷き詰め、足の裏にやさしい感触を与える。テントの外側には旗めくタルチョ(チベットの三角旗)。ストーブの上ではケトルに入ったお湯が沸騰し、部屋を暖めている。すぐそばには毛の長い大きな黒い犬。ぽこぽこと音を立てる水タバコのパイプ。そしてベッドの上に目を向けると、赤いペディキュアを塗る白い肌の裸体の女性。はい、ここで重要なのは、こういうアウトドア的な生活を思い浮かべる時なんだが、大半のケースでは妙に健康的な風景を思い浮かべてしまうのだが、いかがわしい感じのイメージをインストールすると、突然のように物語性が現れるのでお勧めする。

Cryptozoic(クリプトゾイック)ということばがあって、意味は文明の隅っこで密かに生きることを覚えてしまった野生動物のこと。または、港に停泊する古びたボートの中で寝泊まりする、樹上の小屋でコーヒーを入れながら暮らす、ハンモックで眠り、焚き火と共に過ごす人々のこと。そして、ヒンズー語なのかな?「アンテヴァシン」という言葉にも惹かれる。意味は「境界に住む者」。そのためにいろんな物事を捨ててしまった人々の意味もあるらしい。未開の森の奥深くで暮らす賢者でもなくて、賑やかな街に住むわけでもない。そんな人々に興味がある。常に境界線に住んでいて、世界をいくつか渡り歩きながら生きて行かなければならない人というのは、きっと荷物を小さく小さくしなければならないと思う。鞄にうまくぎゅうぎゅうと収めて、ふらっと行ってしまう、そんな感じ。いつか、皆さんも家を捨てて大陸を移動する時はどこかで合流しましょう。

さて、冒頭の「あなたの目の前に、突然、海底二万里のノーチラス号とネモ船長が現れ、この船で世界を永久に航海できる。そしてまだ未解明の海の秘密を解き明かす冒険ができる。しかし二度と降りることができないと言われたときに、そこにあなたは飛び乗りますか?」の質問ですが、僕はそこにエロいのがあれば迷うことなく飛び乗ります。ピース

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Notebookers.jpの管理人。Twitter: @blanq 
狩猟者でヒッピー。通称: 「モレカウ」。240人ちょいのライターによるノートブックユーザーのサイト (link: http://Notebookers.jp) Notebookers.jp 管理人。モレスキンについてたぶん世界一つぶやいた男。著作:ダイヤモンド社『モレスキン 人生を入れる61の使い方』。世界の果てと地平線をこよなく愛してる。「俺も好きにするから君も好きにしなさい」という感じで生きています。愛読書はリチャード・バックの「イリュージョン」と「カモメのジョナサン」、ヴェルヌの「海底二万里」。永遠のヒーローはAndy Warhol

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