6月の星座〜ふたご座の物語〜

Posted on 08 6月 2017 by

賀敦子さんの『ユルスナールの靴』を読み終わりまして。
例えば、エッセイでも物語でも何でもそうだと思うのですが。
書かれた(残された)ものは、そのひとの、本当にほんの一部、氷山の一角どころか、表層、くらいのものなのだろうなあ。
言葉とは、コトバにならなかったもののかけら、と若松英輔氏が言っていたのですが。
本当にコレだなあ、と思います。

私たちは、とシモーヌはつづけた。砂漠の人たちをいうときに、このことばをよく使う。
北アフリカのベルベル族とかトゥアレグみたいに、決まった場所で暮らさないで、オアシスからオアシスへ旅をつづける人たち。なあんだ。私は気がぬけた。やっぱり、そうなんだ。それじゃあ、ヴァガボンドと同じでしょ。ううん。シモーヌはゆずらなかった。ヴァガボンドには、ほんとうはひとつ処にとどまっているはずの人間がふらふら居場所を変える、といった、どこか否定的な語感がある。それにくらべると、ギリシアに語源のあるノマッドは、もともと牧羊者をさすことばだから、もっと高貴なんだ。ノマッドには、血の騒ぎというか、種族の掟みたいなものの支えがあるけれど、ヴァガボンドっていう言葉は、もっとロマン主義っていうのかな。


前振り終わり。
6月になりました。12星座、6月はふたご座です。
(前回は、おひつじ座&おうし座で(注釈がいっぱいの)記事を書きました。こちらもドウゾ
星座としては、肩を並べたふたごのモチーフで、最も明るいベータ星がポリュクス、少し暗いアルファ星がカストル(※印0)だそうです。

双子座

ムダに力の入った注釈(※0)

このふたご、カストルとポリュクス(※1)といいます。
ギリシャ神話中でも、ものすっっっっっごいセレブリティ(※2)です。
まず、このふたごの誕生からご紹介します。
ギリシャ、スパルタの王妃レダが水浴びをしていたところ。
大神ゼウスがレダを見初め、白鳥に変身して近づきます。
これでレダは身ごもり、後日、ふたつの卵を産みます(※3)。
そのうちのひとつから、ポリュクスとヘレネが、もうひとつからはカストルとクリュタイムネストラ(※4)が生まれました(※5)。
ポリュクスとヘレネはゼウスの子で、カストルとクリュタイムネストラは、レダの夫テュンダレオス王の子どもたちでした(※6)。

このレダと白鳥に化身したゼウスは、たくさんの画家が好んで描いたモチーフでして。

ギュスターブモローのレダと白鳥

ギュスターブモローのレダと白鳥

ダヴィンチ先生(が描いたとされる)(現存していないそうです)のレダと白鳥

ダヴィンチ先生(が描いたとされる)(現存していないそうです)のレダと白鳥

ミケランジェロ先生(が描いたとされる)(現存していないそうです)のレダと白鳥(※6.5)

ミケランジェロ先生(が描いたとされる)(現存していないそうです)のレダと白鳥(※6.5)

と、生まれる前から、このように人気のモチーフとなっていたふたごでして。
さらには、一緒に生まれた女の子たちもまた、超のつくセレブリティで。
ポリュクスと一緒に生まれたヘレネ(※7)は、後年、世界一の美女として、トロイ戦争の引き金(※8)になります。
そして、カストルと一緒に生まれたクリュタイムネストラは、というと(※9)。
エレクトラコンプレックス、ファザコンの語源となったエレクトラの母親です(※10)。

と、このように。
カストルとポリュクスは、ギリシャ神話で、綺羅、星のごとき輝きを持つ王家の王子様たちなのです。
では、このふたりは何をしたかというと。
えー、前回、このような記事を書きました
イオルコスの王子イアソンが、王位を取り戻すために、黄金の羊の皮を手に入れる冒険譚があります。
この冒険のご一行様(アルゴナウタイといいます)に、ふたごの王子様たちが参加しています。
そして、黄金の羊の皮を持つ王様の国へ行くわけですが、途中、ベブリュクス人の国に寄りまして。
そこの王様アミュコスと、アルゴナウタイ代表が、ボクシングをしてアルゴナウタイ側が勝てば国を出てもいい、という話になり。
ボクシングが得意なポリュクスがアミュコス王と戦い、見事に勝って国を出ることができた、という話が残っているそうです(※11)。

また、アルゴ号が嵐にあった時、アルゴナウタイのひとりオルフェウス(※12)がサモトラケ島の神々に音楽を捧げ、祈った時、このふたごの頭の上に星が降りてきて輝いたという話がありまして。これは、海の神ポセイドンがふたごの仲のよさを愛でて祝福を与えた、と(※13)。
このエピソードから、このふたごは船乗りの守護神となります。
嵐の日に、船乗りたちがこのふたごに祈ると、黄金の翼をはばたかせて現れ、風と波を鎮めてくれるのだそうです。
あと、嵐の日などに、帆や帆柱に、突然、炎が浮かび上がることがあるらしいのですが、これをセントエルモの火といい、ふたごが天から降りてきたしるしだと言われているようです。

このふたり(というか、四人)に、やはりふたごの従兄弟がいまして。
すったもんだがあって(※14)、カストルとポリュクスと戦うことになります。
この戦いでカストルが戦死します。
このあと、いくつかのバリエーションがありまして。

1)ゼウスがふたごの仲のよさを愛でて、空にあげて星座とした。(※15)
2)ポリュクスが自分の不死性の半分をカストルに与えて、カストルを蘇らせた。
そのため、黄泉の国と星空(ふたご座として)とを行き来して暮らしている。
3)ポリュクスが「自分の不死性を放棄するので、カストルと一緒に死なせてほしい」とゼウスに申し出る。
その心を愛でた(※16)ゼウスは、ふたりを空にあげて星座とした。

と、このようなエンディングとなります。
前回も書いていますが、ギリシャ神話は、ギリシャのそれぞれ地方の話をまとめたものなので、えー、終わり方、展開などが、わりと統一されてないようです。
わたしは、そのくらいいい加減な方が好きなので、どのエンディングでもいいんじゃないかな、と思います(※17)。

ふたごの男の子たちは、華々しく空にあげられて星座になったのですが。
同じ卵から生まれた女の子ふたりは、えー、かなり悲劇的な最期だったりして、切ないです。

では、次は7月に。次は蟹座? 次回もいっぱい余計な注釈をつけて更新しようと思います。
よろしくお願いします。

===以下注釈===
※0:ポリュクスが明るくてゴーカイで、カストルがちょっと寂しそうで内向的、とかだったら、百年の孤独だね! アルカディオとアウレリャノだね!
※1:カストールとポリュックスとか、いろんな発音があるのですが、ここではコレで統一します。
(とか言いつつ、ポルクスとか混じってたらすみません)(わたしはあんまり発音のこだわりがない)
※2:ていうか、神様がふつーにいる世界でセレブリティてゆーてもなあ…
※3:ついてきてますかー。ギリシャ神話だから人間でも卵を産むのです。
※4:舌噛みそうな名前ですが、黙読していたら噛むことはないかと。
※5:この時点で、ふたごではない、とか、そういう事実が顕されたんですが、四つ子のうちのふたご座とか名づけられなかったんだろうなー。
※6:ついてきてますかー。ギリシャ神話だから父親の違う子供を生み分けることができるのです。
※6.5:筋肉質なのは、きっとスパルタの王妃様だから。やはりスパルタンたるもの、王妃様でも日々身体を鍛えていらっしゃるはずで。こういうカンジで。

(ペルシア王のハーレムの場面が、また、いいんだコレ。豪華絢爛@寺山修司的な)
※7:なんと世界三大美女のひとり。日本では、クレオパトラ、楊貴妃、小野小町、となっていますが、世界基準では、小野小町が入らず、クレオパトラ、楊貴妃、ヘレネで世界三大美女だそうです。
(そして、このひとの名前もいろんな発音があるのですが(ヘレネとかヘレナとかヘレンとか)、ここではヘレネで統一します)
※8:引き金てゆっても、とばっちりみたいなもので。あー、このトロイの木馬もいつかNotebookersの記事で書いてみたいなー。わたし視点の、ほんっとーに「これぞバイストーリー!!」みたいな、イリアス余談。
※9:どこから書き出そうかと迷っている(そして、注釈にこんなリアルタイムな過程を書いていいものなのか)。
※10:エレクトラコンプレックス。女の子がお父さんが好きで、お母さんに対抗意識を持つことだそうです。
ギリシャ悲劇のひとつに『エレクトラ』という演目があり、これがその大元のエピソードとなります。
アガメムノンおとーさんがトロイ戦争に行っている間に、クリュタイムネストラが情人アイギュストスと謀って、帰国したアガメムノンを殺し、エレクトラがその復讐をするという物語。
(でもねー、これねー、クリュタイムネストラも気の毒で。クリュタイムネストラはアガメムノンと結婚する前に、相思相愛の夫がいたんですが、アガメムノンの計略で戦死させられた、という…)
(こういう余計なことをいっぱい書きたい)
(しかし、いざ『エレクトラ』について書いたら、きっとまた別の余計なことをいっぱい書きたくなるんだろうなあ)
女の子たちの方が有名じゃないか、とか、そういうことは言ってはいけない。
※11:ジャンプ的?
※12:そう、アルゴ号の冒険に、竪琴弾き、音楽家であるオルフェウスも参加している。多様性、すばらしー。
※13:なんでトートツにふたご? この際、ポセイドンが愛でるべき、褒めるべきはオルフェウスでは…とか、そういうことは言ってはいけない。
※14:この「すったもんだ」の内容こそ、きちんと書いて説明すればいいんだろうけどなあ。どうしてわたしは、こういう大切な本筋をてきとーに扱うのか。
カンタンに説明すると、従兄弟がふたごの牛を盗む、ふたごが盗み返す、炎上、という流れで。
※15:一番シンプルだなあ。
※16:「愛でた」と書けばいいと思っているだろう、と突っ込まれそうですが、えー、かんにんして下さい。
※17:いっそ「Notebookers的エンディング」を作ってもいい、とさえ思います。
自分なら、こういう終わり方をさせて、空にあげて星座にする! みたいな。

■おまけ

突然の暴風。よろめく娘に巨大な翼が覆いかぶさって
まだ羽ばたいている。太ももを黒い水かきが
撫でている。娘の首筋をくちばしが捕らえ
白鳥が自分の胸を、動けない娘の胸に押し当てる。

恐怖に震えて力が入らなくなった指が、ゆるみかけていっく
太ももから、全身に羽を生やした栄光の権化を引き剝がすなど
どうしてできるだろう? 真っ白な襲撃に見舞われた肉体は
異様に脈打つ心臓を肌に感じるより他に何ができるだろう?

下腹の震動から生み出されるのは
崩れ落ちる城壁、燃え上がる屋根と塔
そしてアガメムノンの死。

『レダと白鳥』WBイエーツ 栩木伸明訳



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