アブストラクトゲームという孤独 〜 HIVEの棋譜を記す

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アブストラクトゲームというものがある。
一般的にそれは、ゲームの中にテーマと言うものが無く(抽象的)、ゲームにおける情報が全て開示されており、まったく運要素がないゲーム全般を示す。アブストラクトゲームは、相手のミスでもない限りすべて実力で決着がつき、圧倒的に強い相手とゲームをした人は大体において、ゲーム嫌いになるシロモノである。

文学の中に現れるゲームというと大半において、このアブストラクトゲームであり、登場人物たちはあれやこれやと頭を悩ましており、興味を持つことが多い。
デュシャンは「美は、カルダーのモビールのような意味で一つのメカニックといえる。チェスのゲームには運動の領域で美が存在する。美を作り出しているのは、頭の中で作られている身振りの想像力なのさ」と言っている 。
僕はだいたいのアナログゲームが好きなのだけど、目の前にそのゲームがない状態で、頭の中で想像するその仕草や動作、数手先に完結する二度と現れないそのパターンの美しさに興味がある。

マルケスの「百年の孤独」の中では、チェッカーを行うシーンが出て来る。マルケスの表現では、チェッカーを「基本的な原則について一致を見ている二人の人間の間で争う遊び」と定義していた。

シャーロック・ホームズのワンシーンでひとりの男がチェスをするシーンがある。
「よくチェスをやるのかい?」彼は部屋に置かれたチェスボードに目をやり、たずねた。「ノー、よくってほどじゃない。たまに1人で駒を動かしながら考え事をするんですよ」「チェスは2人でやるんじゃないのかい?」

最近ひとりでできるアブストラクトゲームを探していて、面白いゲームに出会った。「Hive」というイギリスのアブストラクトゲームである(二人用です)。駒のデザインの美しさに魅せられ、ふと買ってみたところこれがまぁおもしろい。そこで複数人にゲームのルールを教えて、何人かと対戦してみたところ、皆が一様に言う事はただひとつ。「全く面白くない」である。

これはもう割り切って、ひとり用のゲームだと考えて至るところでプレイしている。僕にとってノートブックを書くことは遊びなのだけれども、それに似ている。

【Hive】デザイナー: John Yianni

Hiveとは昆虫の群れや巣を表すことば。ボードゲームであるけれども、ボードは存在せず、机そのものがボードとなる。昆虫の六角形コマが数種類あって、交互に配置や移動を行い、最終的に相手の「女王バチ」のコマを取り囲むと勝ち。

【勝利条件】
「女王バチ」の周囲をすべて取り囲むと勝ち
自分のコマだけではなく相手のコマが含まれていても良い

【基本的な流れ】
コマを配置するか、移動するかの2択
最初は何もない状態からスタートする

【配置ルール】
1手目のみ相手のコマに接触して置くことができる
2手目以降は、自分の色のコマだけに接触する場所に置くことができる
相手のコマに一辺でも触れている場所には置くことができない
女王バチのコマは4手目までに置かなければならない

【移動ルール】
女王バチ配置後からコマの移動ができる

[ワン・ハイブルール]
全体のひとカタマリを(HIVE/ハイブ)と呼び、カタマリを分断する動き方はできない

基本的にコマはスライドして移動する
スライドできない場所には移動できない
ただし、バッタやクワガタのみ、狭くすぼまった場所への移動が可能

【各コマの動き方】
女王バチ:1スペースずつ移動できる
アリ:どこまでも進むことができる
クモ:きっちり3マス進むことができる(3マス以下の移動はできない)
バッタ:コマを飛び越えて進むことができる
クワガタ:1スペースずつ進む。コマの上に乗る(降りる)ことができる

【オープニング】
白が先手、黒が後手。
先手1手目は、好きなコマをひとつ、配置する。後手1手目は互いに接触した状態で置く。
2手目以降は自分のコマだけに接触している場所に配置する。
相手のコマに一辺でも触れている場所には配置ができない。
4手目までに必ず女王バチを置かなければならない。
女王バチ配置後から既に置かれているコマを移動することができるようになる。

さてここからが本題。

チェスや将棋のようにボードが存在しないと言う事は、座標が存在せず「Rh6 Kg7」もしくは「▲7六歩」のように縦軸と横軸の座標を記すことができないということである。そこで一週間ほど、この六角形のコマの配置方法(棋譜)をノートブックにどのように記載するかずっと考え続けていた。

僕の友人からまずもらったアドバイスがこちら。

しばらくこの「Honeycomb Addressing」の方法で考えていたんだけど、第1手目を「0・0」の座標として設定して、その後配置した駒をアドレスで記載していくと、フィールドが確定していないため、座標が増幅し、ものすごく複雑な記載となることがわかった。例えば、コマを配置した後に第1手目「0・0」からどれくらい離れた座標に配置したのか、第1手目からの位置関係についてしばらく考えなければならない。

次に考えたのは、最初からフィールドを確定した状態でマスを記載し、そこに配置したコマを記入していく「マッピング」の方法である。

実はこれにも欠点があることが分かった。

ゲームの仕様上、フィールドが拡大していくため最初から用意したマスの中に記載することがだんだんと難しくなることが判明した。それともうひとつ、コマの配置には適しているのだが、コマの移動を記載するときに、ひとつのマスから別のマスに移動した時の前後関係がわかりづらいという難点があった。

そこで発明したのが、「辺記載法」と「横書き法」である。
※正確にいうと「横書き法」はSCYTHE 大鎌戦役というストラテジーゲームがあるのだけど、それをヒントにしている。

図1

【辺記載法について】
自分から見て六角形コマの上辺を1と定義し、時計回りに2・3・4・5・6と番号を割り当てる(図1参照)。配置したコマが接触した「もともと置いてあったコマ」の辺を記載するという方法である。では複数のコマに接触した場合、複数の辺を記載しなければならないのだけど、1辺だけを記載するだけで解決する方法があった。それが「横書き法」である。

【横書き法について】
六角形コマをびっしりと埋めた場合、左から右へ順序よく並ぶのだけど、左上のコマを優先として右下のコマを下位とするという解決方法。文章を記述するときに左上から真横に書いていき、右下まで文章埋めていく横書きの行為になぞらえて横書き法とする。
例えば、図1でQW(5)のコマを配置した場合、横書き法で優先して接触しているのはSW(1)のコマの4辺目に接触しているので、「QW4SW」とSWの4辺目のみ記載することで配置場所を特定することができた。

【複数同色のコマの判定】
では次に複数同色のコマが既に配置している場合、どのコマの何辺目に配置したかを特定するために、横書き法で「①・②・③」と、第何番目のコマであるかを記載することにした。例えば、既に白のバッタが2個置かれて置かれていて、バッタに接触して配置する場合、どちらの白バッタコマに接触しているのかを横書き法で第何番目かを示す。

例:

③AB->2①BW 横書き法第3番目のアリ(黒)を第1番目カブトムシ(白)の2辺目に移動した。
GW5②AW バッタ(白)を横書き法第2番目のアリ(白)の5辺目に配置した。

 

【記述方法について】
あと、配置した場合は、「AW3SW」といったように「配置するコマの名称」+「接触したコマの辺」のみで記載。
移動した場合は「AB→4②AW」といったように、「動かすコマの名称」→「移動後に接触したコマの辺」として記載することにした。「#」はチェックメイトを示す。

[コマの名称の記述方法]
QW:女王バチ(白) /QB:女王バチ(黒)
AW:アリ(白) /AB:アリ(黒)
BW:クワガタ(白) /BB:クワガタ(黒)
GW:バッタ(白) /GB:バッタ(黒)
SW:クモ(白) /SB:クモ(黒)

以上の試行を重ねて、このHIVEというゲームの完成した棋譜がこちら。

1. SW
2. SB1SW
3. AW3SW
4. AB2SB
5. QW4SW
6. GB6AB
7. BW5SW
8. QB5GB
9. AW->6QB
10. AB->6GB
11. BW->4QB
12. GB->4QW
13. AW3SW
14. AB->4②AW
15. QW->6GB
16. AB4AB
17. GW4BW
18. ②AB->5QW
19. GW->2①AW
20. AB4①AB
21. AW2②AW
22. ②AB->6QW
23. ②AW->4①AW
24. BB5②AB
25. BW2GW
26. ③AB->2①BW
27. GW5②AW
28. SB->3③AW
29. ②GW->4①BW
30. GB4GB
31. GW6①AW
32. ①AB->6③GW
33. SW2①BW
34. ①AB->2①SW
35. ③GW->4②GW #

あまり面白くない棋譜ですが、興味がありましたら再現してみてください。以下画像が投了図。

 

タカヤ

ヒッピー/LAMY・モレスキン・トラベラーズノート好き/そしてアナログゲーマー

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