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からっぽ族宣言

Posted on 09 7月 2017 by neokix

 

ちょうど昨日,少し人前で話す機会があった.僕はその語りを(といっても,時間もなくて言いたいことがたくさんあったせいか,だいぶ「わめき」みたいになってしまったけれども),こう始めた.

 寿司屋で勘定を払う時、板の向こうにいる職人に金を渡すものではない。彼らは直接食べ物を扱っているのだから。このことを私は山口瞳さんにならった。
包丁を持つ時には、柄のぎりぎり一杯前を握り、なおかつ人差し指を包丁の峯の上にのせるのが正しい。私はこのことを辻留さんにならった。
((中略))
そうして女の肋骨は、男のものより太く丸く短く、かつ、より彎曲している。(中略)このことを私は、高校の生物学の教科書、およびすべての女友達から学んだ。
と、いうようなわけで、私は役に立つことをいろいろと知っている。そうしてその役に立つことを普及もしている。がしかし、これらはすべて人から教わったことばかりだ。私自身はーほとんどまったく無内容な、空っぽの容れ物にすぎない。

伊丹十三(2005) 『女たちよ!』 新潮社 ((太字は引用者による))

特に最後の部分,「空っぽの容れ物にすぎない」というところが,長い間僕が持っていたこの世の中に対する違和感,になっていたんだと思う.これは伊丹十三先生に感謝を申し上げなければなりません.

そこで疑問なのだが,果たしてどれぐらいの人が,彼の主張(そして僕の共感)に賛同してくれるのだろうか.聞いていた人の反応もまちまちで(前に立っていると表情で共感しているかどうかというものはわかるものだ),今一歩自信がない.顔に出さないタイプかもしれないし,あるいはすごく人生に満足していて,自分が空っぽ,ということに納得がいかなかったのかもしれない.あるいはそんなことを考えたことがなかったのかもしれない.

確かに,この考え方は,ある意味では危険である.近代まで(現在でも?)例えば教育では,生徒を白い板(タブラ·ラサ/White-paper)だと位置づけていた(※1).そしてそれは誤りである.

しかし,そんなことを言われたって,僕の空っぽ感は変わらない.誰が何と言おうと,僕は空っぽの容れ物である.

それとは矛盾するかもしれないように,僕は自分に価値がない,とは思っていない.むしろ,空っぽでもいいんじゃないか,ということを,この昨日の話では結論しとして話した/わめいた.つまり,僕(ら)は「積極的空っぽ」なのである

そして今日,僕の話を聞いた方(仮にAさん)からメッセージが届いた(僕は人前で話すときはたいていの場合連絡先を書いておく.さみしがりだから).Aさんは自分も「空っぽの容れもの」だとおっしゃっていた.そうか,とはたとひざを打つ.この感覚は,いくつかの人には共通で,そしていくつかの人には全くわからない,まるで民族のようなものなのではないか,と.

「からっぽ族宣言」がここに誕生したわけである.

———

からっぽ族宣言

我々は,自らが積極的なからっぽであるということを自覚し,
それを単に空虚感としてではなく,学び続ける可能性のあるものとして認識し,
世界にある様々な出来事を分け隔てなく聞き,学び,体験し,構成し,解体し,再構成し,再解体し,
そして自らのものとして吸収し,発散し,分け与えることを,ここに宣言する.

———–

以前ライターのどなたかが(あるいは複数人が)ノートは,孤独と折り合いをつけるものだ,というようなことをおっしゃっていた.僕はそれに賛同する(言い方は少し異なるかもしれないけれども).
それに付け加えて言うとすれば,ノートは,僕が空っぽの容れ物だということ,そして,その容れ物がこの世に形となって表れたものだ,と感じる.言い換えれば,書かれたこと,そして書かれゆく可能性を持つノートは僕(ら)であり,僕(ら)はノートなのだ.

 

(ちょっと時間があっていった立川市にて撮った関係のない写真でもどうぞ)

 

※1

生徒/学生がタブラ·ラサという主張に賛同できない.僕らは生徒,学生の時,とてもたくさんのことを考えていたし,それをあらわさなかったとしても,考えていたことは確かだ.もし日本で教育をされている人が学生や生徒をその考えを振り返っても[タブラ・ラサ]だとなお思うのであれば,彼らが普段友達と話している内容ー特に人生観や趣味観,恋愛観,世界観ーなどを盗み聞きするといいだろう.彼らは(そしてかつての僕らは)実にたくさんのことを考えている.教師ー学生の関係では,あるいは教室では,(またはウイスキー抜きでは?),語り合えないことが多すぎるだけなのだ.

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