ゲームブッカーズなノートブックはどのような痕跡を残すのか?

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こんにちは、Notebookers管理人 タカヤ・モレカウです。
2008年に「blanq_text」でタカヤが書いた記事のリライトです。

中学校のころに夢中になったゲームブックの話。
J・H・ブレナンの「ドラゴン・ファンタジー・シリーズ(原題:『グレイル・クエスト』Grail quest)」という80年代の名作ゲームブックがある。ゲームブックというのは、「宝箱を開けるなら26へ、開けずに通り過ぎるなら52へ」というように、番号で分割された各パラグラフに飛びながら物語を進行していくというモノ。
そもそもこの本との出会いは14歳ごろ、友達の家に遊びに行ったときに、彼の本棚に格好良くズラッと並ぶタイトルが気になったのがきっかけだったことを覚えている。数冊その友達に借りてプレイしてハマり、その想像力をぶっちぎる冒険の世界にドキドキしたものでした。

Grail quest2

全8巻+αを少しずつ少しずつお小遣いを貯めながらそろえたのだが、その後誰かに貸した後に、全てをなくされるという悲しい運命をたどる。そのときのあまりの悔しさを覚えており、大人になった今ついつい懐かしくなって、当時を思い出して全巻をそろえてしまった!(後述しますが、このシリーズは復刊されているものもあるんだけど、あえて当時のバージョンが欲しかったのさ)

アーサー王のエクスカリバー伝説や円卓の騎士の時代を、相棒のエクスカリバー・ジュニア(話す剣)を携えて、全8巻にて洞窟や海や塔などの様々な舞台を冒険するストーリー。ファンタジーとしては王道なありふれた世界観なのだが、著者 J・H・ブレナンの独特なユーモアあふれる文章で味付けされて一味も二味も違う。
この部分は、まさに「天才的なユーモア」で、あっという間に世界に引きずり込まれるといった表現がふさわしいと思う。古めかしい大きな宝箱を開いたと思ったら「チクチクする指輪」が入ってたり、ポエム好きの魔神に出会ったと思ったら魔法のアヒルをもらったり、おかしいくらい強いウサギやニンジンが襲ってきたりと、最初から最後まで、肩すかしをくらうジョークや、不可思議で魅力的な(そして理不尽な)人物や敵が現れ、主人公の受難っぷりはなかなかの読み応えがあると思う。そして文章に添えられる、フーゴ・ハル氏の鉛筆画のものすごいイラストレーションも必見。けっこうぞわぞわ来ます。

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この物語の中には、まぁ理不尽な人物や敵が大量に登場する。特に好きな人物は、「魔術師マーリン」である。
彼が魔法をかけて、本を読んでいる現代のあなたに呼びかけて、アーサー王の時代までさかのぼって、魔術書である本書を使って引き戻すというメタフィクション的な雰囲気からストーリーが始まるのだけど、この魔術師マーリンはものすごい「変わり者のふてぶてしいおっちゃん」で、主人公を連れてきて冒険に行かせようとするわりに、冒険をする理由もあまり詳しく説明してくれない(笑。その上、旅に持っていく装備品のカタログを渡してくるのだがこれがまた不思議なものが毎回渡される。

冒険の始まり部分。冒険に出かける君の装備を点検するマーリン。

「まず最初に…… ん?」マーリンは急にことばを切って顔をしかめた。「剣はどうした?」
「それが…その…家に忘れてきたんです…」きみは悪いことでもしたかのように答えた(なぜ悪いことをしたと感じたのはわからないが)。
「間の抜けたことを。怪物に出会ったらどうするんだ?たちまち喰われちまうんだぞ。しょうがない…取ってきてやろう。…さてと、そろそろ装備を点検した方がいいな」(装備品のカタログを渡すマーリン)

【装備品リスト】
斧、人工アリクイ、毛布、包帯、本喰い虫、青い粉、調理器具、釣り針、オイル瓶、アイゼン、着替えの服、クリック・スティック、犬の首輪、金モール、ハープ、掛け金、革紐、ジョークブック、ナイフ、リュート、羊皮紙、インク、羽根ペン、白ぶどう酒、ノコギリ、火口箱、水袋、木琴、ハンマー

「あのう…なかによくわからないものがあるんですが…」
「本当か?わしには、どれもこれも冒険にふさわしい品物ばかりだがな。どれがわからない?」
「たとえば、人工アリクイっていうのは?」
「それはわしのちょっとした発明品でな」さも自信ありげにマーリンが言った。
「アリを喰う一種のロボット・ネズミなんじゃよ」
「本喰い虫というのは?」
「文字通り、本を喰う虫じゃ。それくらいのこともわからんのか?」
「でも…なぜそんなものを?…」マーリンはじれったそうな顔をするだけで答えない。
「じゃ、青い粉っていうのは…?」しかたなく、たずねてみた。
「ああ、それ?なかなか便利なものでな、何かに追われた時にその青い粉を撒いて使うんだよ。追ってくるものが何であれ、足を滑らせて首の骨を折るんじゃよ」
「それから、クリックスティックというのは?」
「それもわしの傑作発明品でな。そいつがあれば、コオロギと話ができるんだ。いわば、コオロギ用通訳機械じゃ」
きみは不審に思っている品物を立て続けにきいてみた。
「金モールとか、ジョークブックとか、木琴がなぜ必要なのですか?」
「じゃ、ハンマーやノコギリは、なぜ必要なんだ?」逆にマーリンがきき返した。
「たぶん、役に立つからでしょう?」
「金モールやジョークブックや木琴にしたって、同じことじゃよ」マーリンはもっともらしい顔で答えると、
「こういう冒険ではどんなものが役に立つかわかりゃしない。だが持っていくかどうかはおまえが決めることじゃ」

「どうやらきれいなブーツを持ってこなかったようじゃな?かわいそうに、お前が履いているブーツは磨かないとならんな。ひどいものだ。だが、ま、かまわんだろう。彼も頭が混乱しているから、そこまで気付くまい」
「彼、というと?」マーリンのやり口を知っているきみは少し身構えてきいた。
「王に決まってるだろうが!世の中が手に負えなくなる前に、わしらは彼に会わなければならんのだよ。」
「王に会うんですか?そういう服装じゃないですよ?——- 」他人の話などめったに聴かないマーリンだ。君の話などうわのそらだ。彼の目はどんよりと曇り、両手を振って何やらつぶやいている。古代ウェールズ語、偉大なる英国の魔術師の謎に満ちたことばだ。

王の謁見終了後
「ほれ出発じゃ。」
「え?ちょっと待ってください。魔界の門なんてどうやって行ったらよいかもわからないんですが?!」
「やりかたさえわかってしまえば、簡単なものよ。おまえがどこにいようとも、一番不気味そうな方角へ進め。足を止めたときも、また一番不気味そうな方角へ進め。もっとも不気味そうな方角へ進むんじゃ。魔界とは不気味なところだからそれでたどり着くようになっておる……」(グレイル・クエスト「魔界の地下迷宮」より)

魔術師マーリンは終始こんな感じ。しかし女性にもてるなかなかニクイ老人なのである。毎回、魔術師マーリンはその隠れ家を変えるんだけど、これがまた不思議な場所に住んでいる。丸太の城→ 水晶の宮殿→樫の木の中→井戸の中→サイコロ型の隠れ家→樽の中→ロック鳥の卵の中→行方不明。毎度のことながら、まったく話を聞かないのがわかってくると、だんだんマーリンと話すのが楽しくなってくる。こんなマーリンを終始相手にしているのだから、主人公の振り回されっぷりも、ものすごいことになっています。 

当時、この本を読んでいて思ったのが、わりと古代ウェールズとかスコットランドの文化についてさらっと書かれているのでためになるなぁと思っていた。ハギス (Haggis) とは、羊の内臓を羊の胃袋に詰めて茹でたスコットランドの伝統料理なんだけど、ハギスはこの物語の中では一筋縄では行かない敵のキャラクターとして登場する。そして、「ハギス牧場」なるものも登場します。WEBも無いような中学生の頃、この得体の知れないハギスを一生懸命図書館で調べた記憶がある。

スコットランドで古来より存在が信じられている伝説の生物。ハイランド地方の山中に密かに生息し、満月の夜に心の清らかな者だけが目撃できるとされ、くちばしを持ち全身が毛で覆われて丸っこいカモノハシのような姿であったり、長い3本足ですばやく動き回ったりなどさまざまな姿が言い伝えられている。この料理は見た目があまり良くないことから、「伝説の動物の肉」を使っているのだという冗談の種にもされる。毎年末には「ハギスハント (Haggis Hunt)」という捜索イベントが開催されている。(@ wiki)

だが、このグレイル・クエストの中での表現はこうだ。

囲いの中から漂ってくる臭いと神経を逆なでする、身の毛もよだつあの独特の鳴き声。他でもない、ここは内臓風の化け物ハギスの飼養場だ。
「だけど、生きてるハギスなんてみたことないぜ?」E・J(主人公が持つ、おしゃべりする剣)が言った。
「見たくもないよ」きみは落ち着いて言った。「ドラゴンとイタチを別としたら、ハギスほど気味の悪いいきものはないね。気味が悪いだけじゃなくて、凶暴なんだ。見ろよ」と指さしながら、「あいつらを飼っている柵の丸太の太さ。それに丸太を縛っているロープだって普通の二倍はあるぜ。だいたい柵の高さも並じゃない。ハギスは自分の背丈の七倍の高さでも飛び越えるっていうからな。それに見ろよ、柵の上に埋め込んだガラスの破片を。周りにも深い壕が掘ってあるだろ?万が一あの化け物が一匹でも逃げたら溺れさせるためなんだ」—— (グレイル・クエスト「ゾンビ塔の秘宝」より)

もはや完全にハギスは凶暴なモンスターで描かれている。イラストレーションも「内臓っぷり」がものすごい感じです(笑。このアイルランドのこの作家が、ニヤニヤとしながら書いている姿が想像ができてしまうところにとても愛着が沸く。

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さて、ゲームブックの中の「冒険」をノートブック上で想像したり、考え事をすると、それはなかなかカオスのような痕跡を残すことになる。自分にとってノートブックは考え事の痕跡の集合みたいなものなんだけど、本に夢中になってからページをぱらりとめくってみると、もう暗号のようになっていて、一見何が書かれているのかさっぱりわからないのがポイント。
ここに載せたノート写真は全て、ゲームブック上の考え事を記載しているページなんだけど、「地下迷宮」の状況や「セクションの数字」を書き綴った ページや、魔人から手渡された「暗号」を数学的に式を作って考えているページや、文章だけではピンとこなかった部分をWEBで調査して簡単な挿絵を入れておいたりと、次々と埋めつくされていく。

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巨大なモンスターのお腹の中から「真鍮製の頭」が出てきたり、「数字の割り振られた鍵」など、手にいれるものは不可思議なものが多いので、ノートブックを使って持ち物リストのチェックもなかなか楽しい。

中学生の頃に熱心に読んでいた本を再度読みなおすと、王妃グィネヴィアとランスロットの不倫関係や、円卓の騎士たちや、ギリシャ神話に登場するイアーソンの「黄金の羊」などにまつわる物語等、大人になってからわかるジョーク等も隠されていることに気付く。なかなかに奥が深い。

ちなみにこの記事を読んでゲームブックに興味を持った方は朗報、当時のグレイル・クエストは絶版で入手困難だが、復刊されたバージョンは2014年4月現在、amazonで購入することが可能だ。暗黒城の魔術師」→「ドラゴンの洞窟」→「魔界の地下迷宮」→「7つの奇怪群島」→「魔獣王国の秘剣」の第5巻までは復刊されている(ちなみに同作家の別刊「ドラキュラ城の血闘」も復刊済)。残り、「宇宙幻獣の呪い」と「幻城の怪迷路」と「ゾンビ塔の秘宝」の復刊を楽しみに待っている。

読み始めたなら、魔術師マーリンが読み手に呼びかける呼び声で、最初の2ページで一気に引きずり込まれるので注意願います。そういえば、どこかのWEBで読んだけど、「ゲームブック」というジャンルの読み物だけが「中の登場する人物が、読み手であるあなたに、ずっと呼びかけることができる唯一の物語」であるとのこと。これはなかなか目からウロコな考え方だった。ミヒャエル・エンデの「ネバー・エンディング・ストーリー」も読み手であるあなたに話しかけた物語だったけど、ゲームブックなるものは、ずーっと最初から最後まで、中に描かれた魅力的な人物が、あなたに話しかけてくることができる。そういう「物語」だ。そういう文学に出会ったことがあるかい?

P.S ちなみに大好きなモンスターはグレイルクエスト3巻目「魔界の地下迷宮」に登場する不気味な姿の「ボタボタ」です。このモンスターが6歩歩くとそれはもう大変なことになります。どれくらい大変なのかは、本を読んでチェックしてみてください。

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タカヤ

ヒッピー/LAMY・モレスキン・トラベラーズノート好き/そしてアナログゲーマー

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