スペイン巡礼で目指すのは
スペイン北西部にある
サンディエゴ・デ・コンポステーラという都市に眠る
キリストの十二使徒のひとり、ヤコブに会いにいくことだ。
サンディエゴ・デ・コンポステーラ大聖堂にいる
金ピカのヤコブ像に背中からハグをし、ミサに参加すると
私の800kmを歩く巡礼の旅はひとまず終わった。
が、その先100kmにあるフィニステラという港町を目指す巡礼者も少なくない。
フィニステラは「この世の果て」という意味で
大西洋に面しているので
まさにこの世の果てだ。
引き続き歩く巡礼者もいるが
私はそのときくたびれ果てていたので
まさかの再会を果たした巡礼中に知り合った日本人の女の子とバスでフィニステラを目指した。
フィニステラの岬には灯台があり、
そこで巡礼者の何人かは
自分が巡礼中に着ていた服、
はいていた靴、
ついてきた杖を燃やす。
そうして、自分の巡礼を終了させ、
それまでの自分を捨て、生まれ変わる。
私はなにも燃やさなかった。
天候が悪く、強風で
こんなところで火を扱えない、と思ったのと
とにかく心身ともにくたびれていたのだ。
それに巡礼の最後は呆気なかった。
気がついたら終わっていて、それを受け留めきれなかった。
風を避けるために灯台の中に入り、
レモン味のシュワシュワした飲み物を飲みながら、
どんより曇って向こうの見えない灰色の空と海をぼんやりと見つめるだけだった。
ほかの巡礼者はそそくさとフィニステラを去ったが、
私たちはそこに3,4日滞在することにした。
巡礼は毎日移動をする。
一つの街に留まることはない。
(できるけど、巡礼宿の使用はできない)
なので、ひとつの同じところにいて
そこに帰り、
毎朝荷物をすべてまとめずに
「明日の朝、片づけちゃおう」と夜、ベッドにもぐり込むことができるのは
一種の解放感と贅沢な感覚だった。
私たちは身軽になり、
フィニステラの街を歩いた。
シーフードを楽しみ、
買い物もちょっぴり楽しんだ。
巡礼中は少しの重さも身体にこたえるので、
前日に財布の中のレシートを捨てなかったことさえも後悔するほどだった。
滞在の後半、ようやく晴れた。
晴れてやっと、青空と青い海を見、水平線を見た。
瀬戸内で育った私には水平線も地平線も見ることがないので、
いつでも感動する。
そして空と海が交わるところを見た。
きれいで
美しくて
愉快な気分になった。
それまでは「この世の果て」と聞くと
とても寂しい気分になった。
どこまでも続くと思っていたものに
不意に終わりがあるのを知った、そんな感じ。
今でもそんな寂しさもあるけれど、
「わー、きれい!」
と叫んだフィニステラのことを思い出すと、
この青に溶けて透き通っていく感覚も思い出して、口元が緩む。
■ 本日の写真
私の膝の上あたりに灯台が見えている。
あの灯台の向こうには焼け焦げたあとがちょくちょくあった。