星座はしだいにその形を変え、青い星に代わって白い星が、橙色の星に代わって赤い星が位置をおそい、またゆずり合い、すれちがっては新しい形象を編み出していった。
寄せてはかえし
寄せてはかえし
かえしては寄せる波また波の上を、いそぐことを知らない時の流れだけが、
夜をむかえ、昼をむかえ、また夜をむかえ。
(『百億の昼と千億の夜』光瀬龍)
第3回にもなりまして。Notebookers読書会レポートです読書会でのワタシのほぼ唯一の役割はタイムキープですせらです。
この読書会は、「この本」と決めた本を読んできて、感想を話し合うのではなく、自分が「語りたい」「話したい」好きな一冊を持って来てもらい、その本について1時間語る、という会です。
よく「えー、1時間も話せなーい」と言われるのですが、えー、これがなかなか。
(割と)あ っとゆー間に時間が経つ、話せるようです。
変則的な読書会ですが、ワタシがこのスタイルが好きで、楽しいので、これからもこんなカンジでやっていこう、と思っています。
そして、文章が『〜だそうです』『〜なようです』と、伝聞形が炸裂しています。
コレは、聞き取ったものを文章化しているので、ソコはなにとぞご容赦。
今回は2月16日と3月2日の2日で開催しまして。
合計5冊の本について、話してもらいました。
1日目〜2月16日(日)
参加者さんと本
みなと @minato_nozomu さん(『百億の昼と千億の夜』光瀬龍)
縫い子 @Nuiko_ さん(『オチビサン』安野モヨコ)
せら @Treasure_Table (『四十七人の刺客』池宮彰一郎)
まずは。お約束なので。積む。
(ワタシ、今回、改めて思ったんですが、やー、読書会、で、積むのが(主に)本なので、皆、優良建材なのですよね。や、ノートブックだけのタワー、長らく積んでないような気がする)
(や、ほら、あるじゃーないですか、「誰のだよこの※不良建材モレは!」とか「何、このトラベラーズ!何挟んでこんなになってるの!」とか)
(※不良建材:ノートブックを積んでタワーを作る、その際に、貼ったり挟んだりして膨らみ過ぎたノートブックは、置いても平らにならず、その上に積みにくいため、不良建材と呼ばれています。そのように不安定なので、積み上がったタワーが倒れるまで数秒だったりすることも。その数秒で写真を撮るのです)
(Notebookers Meeting 等で、カフェで集まったら、テーブルに、持って来たノートブックを積み上げます。それをモレ(スキン)タワー、(単に)タワー、(単に)積む、と言います)
一冊目:『百億の昼と千億の夜』光瀬龍
みなとさんが持ってきてくれました。
光瀬龍作の小説版と、萩尾望都作の漫画版と二冊です。
学校の先生に勧められた「とても紹介、説明のしづらい本」とのこと。
1960年代のSFで、東洋的無常観と独特の世界観が描かれているそうです。
(初日、一冊目、このみなとさんの最初の説明の時点で、「よ、良かった! 読書会開いて良かった!」とすかさず思いました)
伝説の大陸アトランティスから始まり、お釈迦さま シッタータ、神という存在に疑問を持つ阿修羅王に対し、敵役のナザレのイエスが絡み、神とは何か、救いとは、世界の滅亡が救いなのか、惑星開発委員会とは、という内容で。
「登場人物では誰が好きですか」と聞いたところ「誰とかじゃなくて、話そのものが好き」とのこと。
上の写真が、記事冒頭の引用なんですが、みなとさんは、この文章が好きなんだそうです。
文体が独特で、この画像にもあるように、文章が途中で改行されているところとか、視覚的にもちょっと変わっているんだそうです。
ちょっと見せてもらったのですが、本当に「こういう話で」と説明するのが難しく。
みなとさんは、最初に漫画版を読んで、次に小説を読んだそうですが、えー、漫画版の方がわかりやすいとか。
光瀬龍が作りきれなかった、制御できなかった作品世界を、萩尾望都がちょっとオリジナルを入れて、わかりやすく漫画化したそうです。
原作を原作者以上にわかりやすく描けるって、萩尾望都がものすごく原作を読み込んで、理解しているんだろうなあ、と、そういった話も。
光瀬龍が、アトランティスの伝説、仏教の教義、無常観、末法思想、キリスト教の教義、などを、きちんと理解して、その上でSF世界に取り込むこと、『銀河がぶつかる』という表現があるのですが、この『発想ができること』、『知識として知っている範囲』だけではなく、『想像して創り出す』ことのスケールの大きさってすごいね、とか、60年代に書かれたのだから、Googleで検索して、0.03秒で数千件の検索結果が出るわけではなく、これ、全部、本を読むとか、ひとから話を聞くことで、知り得た知識なんだろうな、とか、ラスボスより《より高次の存在》を最初に扱った小説がこれで、その流れでエヴァンゲリオンも? とか。
これで、ワタシ、みなとさんの話を聞いていて、ちょろっと思ったのですが、この読書会に持ってきて頂いている本、1時間話したい本ていうのは、ものすごく『そのひとを形づくる』。
選んで持ってきている本は、そのひとを顕す。
二冊目:『四十七人の刺客』池宮彰一郎
いわゆる『仮名手本忠臣蔵』に準じる忠臣蔵がお好きな方に申し訳ない、えー、ワタシの1時間でした。
ワタシ、自分で1時間話していて、「ああ、ワタシ、(中国の思想でいう)『法家』が好きなんだなあ、」そして「潤沢な資金を思う存分使う復讐譚がほんっっっっとに大好き」と改めて思いました。
引用だけちょっと。
縄田:(略)政治という大きな権力の中にあっては、結局は美しく、侍らしく死なせてもらえないんですね。侍は美しく死ななきゃいけないなんていうのは、表面だけでみると、非常に封建的な考え方ととる人もいるかもしれませんけれども、逆に美しく死なせてくれない中で、それを貫こうというのは、一種のレジスタンスになってきてしまうんでしょうね。
池宮:一種のレジスタンスです、社会に対する。極端にいえば、幕政とか、幕藩体制とかの批判ではなくて、人間を美しく死なせてくれない世の中全般に対する一つの反逆の精神です。
(『池宮彰一郎が語る忠臣蔵のすべて』池宮彰一郎・縄田一男)
三冊目:『オチビサン』安野モヨコ
縫い子さんが持ってきてくれました。
ご存知の方も多いかと。朝日新聞日曜版に連載されているそうです。
(新聞も持って来て頂きました)(ありがとうございます♪)
安野モヨコさん、名前の由来から。
安野は、安野光雅氏から、モヨコは、某小説の呉モヨコから、だそうです。
(ワタシ、これを聞いた時「え…、」という反応をしたんですが)
(お心当たりのある向き、ご存知の向きは「アレだね!」と縫い子 @Nuiko_ さんに @ を飛ばしましょう♪)
手貼り、トレーシングペーパーで切り抜いてステンシルのようにして描いているそうです。
オチビサン:ひとのような、ちょっと妖精のようなキャラクターで、安野氏の自画像から展開して、このオチビサンになったとか。主人公。
ナゼニ:本好きで、調べもの担当(「なぜに」は口癖ではナイそうです)
パンくい:食いしん坊で、何でもパンに見える
おじい:見守り役
この四人(ひとなのかわからないとか、ひとじゃないキャラクターもいますが)が主な登場人物だそうです。
『くいいじ』というエッセイが先にあり、これが元になっていて、これらのキャラクターもここから生まれたようです。
安野氏が鎌倉に住んでいて、その近辺をモデルにしていて、作中でも鎌倉が舞台だとか。
縫い子さんは、このページを
『ページを千切って飲み込みたくなる』
『自分のなかに通したい、取り入れたい』
と、話して頂きまして。
(その時の、縫い子さんの熱を、この記事でどういう風に書いたら伝わるだろう、と、今、すごく思います)
で、これすごくわかるなあ。
ワタシも本を読んでいて、
「この文章、この文体、行間から句読点のひとつまで、自分の中に入れたい! 血肉にしたい!」
と思うことが多々あります。
お約束「どういったところが好きですか」と聞くと、
「ふわっとしたことをひとつひとつ丁寧にすくい上げているところ」とのこと。
例えば、コレとか。
もうひとつ、お約束の『本のカバーを外してみると』
表紙のタイトルのところに、オチビサンがあるのですが、その巻の中の(どこかのコマの)オチビサンだそうで、これを探すのも楽しい、と話してくれました。
あと、『オチビサン』見せて頂いて、ひじょーに気に入ったのがこのページ。
『食パンの食ってなに?』から『解決しちゃったら物思えないでしょ!!!』
ぜったいこの方が楽しいと思う『解決しないこと、調べないことを選ぶ』
「ふんわりと、日常を大切にした話だけではなく、生死を扱ったエピソードもある。そういうところも好き」だそうです。
縫い子さんのこの話を聞いて、前述の『本は、そのひとを形づくる』、これにすごく納得しました。
オチビサン、見せてもらったんですが、本当にカワイイ絵で、話も、キャラクターそれぞれの役割がくっきりしていて、季節のこと、季節と季節の間のこと、など、そしてそれと同じ重さと軽さで書かれた死生観の話とか、縫い子さんがふだん話すことと、ものすごく重なっていて、ひとの内側って、好きな本や音楽、その言葉で満たされていくのかなあ、と。
日が変わりまして。2日目〜3月2日(日)。
参加者さんと本
ちい @chii_nakanaka さん(『注文の多い注文書』小川洋子&クラフト・エヴィング商會)
せら @Treasure_Table (『たったひとつの冴えたやりかた』JティプトリーJr. )
(あと、見学のゲストがおふたり)
この日も、まずは積む。
四冊目:『注文の多い注文書』小川洋子&クラフト・エヴィング商會
関東からの参加者さんです♪ありがとうございます♪
ちいさんは、以前からツイッターなどでのやりとりで、小川洋子さんが好きと聞いていたので、『博士の愛した数式』か『猫を抱いて象と泳ぐ』、かなあと予想していたんですが。
1月に出版されたばかりの『注文の多い注文書』、持ってきて頂きました。
小川洋子さん、そしてクラフト・エヴィング商會のコラボレーション本で、「ファンにとっては、『待ってました!』な本」だそうです。
「読書会、このタイミングの発売、これだ!と思って選んだ」とのこと。
古今の文学作品の名作をテーマにした五つの短編から成っています。
まず依頼者がクラフト・エヴィング商會に「こういったものを探して下さい」とお願いする章『注文書』、クラフト・エヴィング商會が探してきたものを説明する章が『納品書』、依頼者のお礼やその後のエピソードが書かれている『受領書』という構成です。
『Case2 バナナフィッシュの耳石』について、(主に)話して頂きまして。
依頼者は『J・D・サリンジャー読書クラブ』の三代目会長(もう、ワタシ、この時点で「わ、わー♪」とトキメキました)、依頼は、1965年以来、作品を発表していないサリンジャーのために『バナナフィッシュの耳石』を探して欲しい、という内容で。
この『サリンジャー読書クラブ』のディテールが素晴らしい!
月に二回の会合、サリンジャーの研究者を呼んでの講演や朗読会、作中の料理を再現して食べたり、好きなフレーズの発表、などなど…
そして、読書クラブ内には、二つの派閥があるそうで。
梯子派:サリンジャー作品を何回も読む。一段一段、物語の洞窟を下りるような読み方。時に自家中毒的な症状を引き起こす。
グライダー派:広い地平をパラグライダーに乗って飛ぶような、水平的、開放的な読み方を好む。
この依頼者、会長さんが、『ナインストーリーズ』のタイトルから、ある法則に従い『詳しくは説明できない』方法で発見した単語が『earstones』耳石、これがサリンジャーの創作の秘密ではないか、と…
これでクラフト・エヴィング商會が探してきたオブジェがまた素晴らしいのですが、それを説明するちいさんが、ものすごく嬉しそう、且つ、楽しそうで、ああ、本当に、小川洋子さんとクラフト・エヴィング商會さんが好きなんだなあ、と、(改めて)読書会開いて良かったー!と思っていました。
そしてもうひとつ。
『Case4 肺に咲く睡蓮』
タイトルに、一瞬、え?と思いました。モチーフはボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』だそうです。
依頼者は指圧師さん、依頼は肺に咲く睡蓮を探して欲しいとのこと。
〜ネタバレにつき、白黒反転します〜
この指圧師さんのお客が、同じく小川作品の『薬指の標本』に出て来るデシマルさんという標本商だそうです。
小川作品には、こういうクロスオーバーはないので、デシマルさん登場というのは、衝撃的なオドロキだとか。
話の内容とか、展開より、デシマルさん来たー!!とそっちの方に意識を持っていかれた、とのこと。
ちいさんは『うたかたの日々』も読んでいて、『Case4 肺に咲く睡蓮』共に、説明するのが難しい、こういった話だよ、と言えない、そのつかみどころのなさ、そして、ただ綺麗なだけではない小川作品の作風がいい、好き、と、話して頂きまして。
そして他の小川作品の話になって、『ちょっとずつ物語を集めて、1冊にするのが上手』とか、『密やかな結晶』は、作風が微妙に違う、特別な作品とか、(なぜか)イタリアの作家カルヴィーノの話になり、『冬の夜ひとりの旅人が』や『むずかしい愛』(「この女、俺に触られたいのか、触っていいよね、触られたがってるよね」)や、『月が柔らかい』SFも書いている、とか。冷えとりの本とか。
五冊目:『たったひとつの冴えたやりかた』JティプトリーJr.
ワタシ、せらの『話したい一作』
読書系雑誌で、ガールズSF特集などがあれば、上位に入っている作品です。
が、本当に良い作品なので、女の子向けSFということで男性が敬遠したりすると勿体ないなあと。
表題作と『グッドナイト、スイートハーツ』『衝突』の三作からなる短編集で、この三作目『衝突』について話しました。
銀河連邦が確立された未来世界が舞台で、連邦の端っこ、辺境の星域での物語です。
辺境の星なので銀河連邦との行き来があまりないために、ささいな軋轢から、戦闘状態まであと一歩くらいの状況になりまして。
それを回避するため、パトロール隊の隊長アッシュが、言葉もロクに通じない(敵意満々の)エイリアン クリムヒーンに対して『信じる』を定義します。
(未来世界ですが、万能通訳機のような便利なモノはないのです、そのアナログ感がたまらん)
「おたがい・信じる・しないと・死ぬ!」
クリムヒーンはしばらく無言だ。それからたずねる。
「しんじる・なにか?」
「信じる…」アッシュはまわりで渦巻く水がますます深くなるのに、鉛のように重い木ぎれしかつかまるものがないのを感じる。そしてクリムヒーンがなにかに気をとられた感じで、銃口をこちらの頭に向けているのを、ぼんやりとさとる。ままよ。「信じるはーー(略)」
* * *
この後、フリートークターイム!になりまして。
去年、札幌で行なわれたNotebookersキャンプでの、モアイやストーンヘンジがある霊園の話や(目撃はしていないけれど、大仏様もあるとか)、もんじゃ焼きの話とか。もんじゃ焼きトークは、ものすごく哲学的な流れになり、『液体と固体の中間に位置する』『抽象的存在の食べ物』とか。
この後。
イッセイミヤケとmtさんがコラボしたマスキングテープを見に行く、とか(見に行っただけでしたが)、スタンダードブックストアへも行きまして。
スタンダードブックストアでは、ナイフいいねー、かっこいいねー、と見ていて。
お約束のような会話に。
「NotebookersMeetingで「誰か、ナイフ持ってないですかー」って聞いたら、「あ、あるよ!何切るの?」って2、3種類出すんだよきっと」
「ぜったい誰か持ってるよね」
とか。
あと、『野宿の本』『焚き火大全』とか、そういうアウトドアな本のコーナーを見ていて、『焚き火のスターターキット』というものがあって、「じゃあ、あとはソローがあったらカンペキ!」とか。
「ソローを読んだら、帰って来れない気がする」とか。
今回の二回の読書会、今、こうして思い出しながらまとめていて思うのですが(先日の朗読会もそうだったんですが)それぞれの時間に、聞かせてもらったことそのものとか、それを聞いて感じたこととか、それらは、その時のもので、このレポートはほんの一部で、や、ホントにリアルタイムで体験して欲しいなあと思います。
これは読書会だから、話すのは本のことなんですが、例えば音楽でも、写真でも、映画や演劇、例えば料理やライフハック、その他アートなども、そのひとが好きなものを「これのこういうトコロが好き」と話される内容は、本当にそのひとを作る構成要素、それこそが Notebookers が背負っている『見えないもの』なんだろうなあ、と。
これからも読書会、開きますが、その『見えないもの』を聞かせてもらえたらいいなあ。
ツイッターでも、内容やジャンルは全くの門外漢でも、そのひとが好きなことを楽しそうにつぶやいているのがTLに流れていると、ワタシもニコニコしてしまうんですが、それの1時間拡大ヴァージョン、多分ですが、読書会、ワタシが一番楽しんでいる(と思います)。
3回目の読書会にして、…や、この Notebookers.jp のコンセプト、『ノートブックそのものよりノートブックを使うその人が面白い』に、くるっと一回まわって戻ってきたような気が。
戻ってきたよ。
最後になりましたが。いつもながら。皆様、お礼申し上げます。
読書会お知らせをRTして下さった方、不参加表明して下さった方、参加して下さった方、本当にありがとうございます。2014年の目標としては、野外読書会&関東での読書会です。参加、お待ちしております。
ぜひ皆様の『見えない面白いもの』を聞かせてください♪