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ホタルブクロ ぴょこ

Posted on 16 6月 2014 by

周りを柵に取り囲まれたベッドの上で、

布団を床に蹴り落とし、酸素マスクを放り投げ、点滴をひっこ抜き、

その人は大きい声で叫ぶ。

私を今すぐうちへ帰せ、こんなとこにこんなふうにされるなら死んだほーがましだ

 

ご飯もお茶もいらない。薬も飲まない。誰に触られるのもいや。服もオムツもそのままで、誰とも話さず、その人はひたすら自分を迎えに来るであろう家族を待っていた。

やっと来た家族は、その人に言う。

そんなからだで、うちへ帰ってきてもらっちゃ、みんな困る

 

立って、歩けるようになれば帰れる。と、みんなに説得される。

もう歩けないのはみんな知っているのに。

立って歩く練習をしよう、頑張ろう、

私はなにを言っているんだろう。

 

 

その人は夕方になると、大声で叫ぶ。

何を言っているのか、泣いているのか怒っているのか笑っているのかもわからないような声。

最初のうちはみんな心配してそばに来て、そんだけ大きい声出せる元気があるなら大丈夫!明日はお家へ帰れるよ!なんて声をかけていたけれど、毎日続くとたまったもんじゃない。

その人は別室に移されて、カーテンも扉も閉められ、人の顔を見ると大声で訴えるから、と、みんな極力その人と顔を合わせないように仕事をする。

 

立って歩く練習をしよう、頑張ろう、

そういえば、庭に植えておいた大事なホタルブクロを、雑草と間違えて嫁さんがひっこ抜いちまった。

うちに帰るのを邪魔しているんだ。あんなやつのいるところになんか帰らない。

もう死ぬしかない。死にたい死にたい。

こんなくそばばぁの足なんか揉まなくていい、あんたもどっかいけ。

 

モニターの数値とは裏腹に、その人は元気に憎まれ口をたたき続ける。

点滴が何本増えようが、いたちごっこのようにひっこ抜き、危ないからと手足を紐で柵に縛りつけられる。

汚れたシーツは交換するのも一苦労なのでそのまま。

たまに来る家族は、そんな状況をどう見ていたんだろう。

すぐケンカになってしまい、逃げるように帰っていってしまう。

死にたい死にたい。

毎日言っていた。

 

今日は声が小さいなと思った。

珍しく、中学生くらいの女の子が面会に来て、部屋に入ってその人を見るなり言った。

「おばぁちゃん、こんなにちっちゃくなっちゃったの?」

 

その子は、ホタルブクロを持ってきて、花瓶に挿してその人に見せていた。

あんなに穏やかな顔をするところを初めて見た。

 

 

image

数字がどんどんおかしくなって、

いつもの叫びは小さくなり、

綺麗に整頓された部屋。

浅い呼吸で、乾いた目で、その人がはじめて、

死にたくない、と言った。

 

とっさに、大丈夫だよ、と言って、

なにが大丈夫なんだろうと、直後にぞわっとした。

なんで今、笑ってそう言えるのか、

そんなこと言われてどのくらい不安だろう、なんて軽い意味のない言葉だろうと、

背中がぞわぞわする。

 

また立って歩けるように頑張ろう。

大丈夫。また明日。

 

いつのまにか、からっぽになった部屋。

ご家族が、

長い間ご迷惑をおかけしました。大変お世話になりました。ありがとうございました。

と頭をさげて帰って行った。

 

 

もっと聞けばよかった。

好きな花のこと、あの子のこと、おうちはどこで、いつもなにしていたのか。

死にたい、の後ろに隠れていたいろんなお話に、はやく気づければよかった。

 

一番最後に、

カーテンが開いて、扉も開いて、明るくなったその部屋で、

その人は、看護師さんに、ありがとう、と言ったんだって。

 

 

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Profile: ぴょこです。 ド田舎の愛すべきじじばばと毎日激しいリハビリを繰り広げております。 傍らにはいつも、ノートと色鉛筆。 唄うことは、生きること。 かえるのたてがみ http://ppppyokoooo.hatenablog.com twitter @ppppyokoooo

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