Happy holiday! Notebookers! アドベント第一週☆Date with a Notebookers Christmas book(半分Vr.)(WEB版)オーギー・レンのクリスマスストーリー

Posted on 30 11月 2015 by

日の記事、初めてモレスキンを書いたときのことを憶えていますか。この記事での、最初に書いてみるリストのひとつ、タイの首都、バンコクの正式名称ですが。
wikiより

กรุงเทพมหานคร อมรรัตนโกสินทร์ มหินทรายุธยา มหาดิลกภพ นพรัตน์ราชธานีบุรีรมย์ อุดมราชนิเวศน์มหาสถาน อมรพิมานอวตารสถิต สักกะทัตติยวิษณุกรรมประสิทธิ์
クルンテープマハナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラアユッタヤー・マハーディロッカポップ・ノッパラッタラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーンアワターンサティット・サッカタットティヤウィサヌカムプラスィット

長すぎて国民も覚えられない。なので、最初の部分をとり、国民は『クルンテープ』と言っている。 タイ語は後置修飾が基本であるので、意味は後ろの節から訳し、以下のようになる。
イン神(インドラ、帝釈天)がウィッサヌカム神(ヴィシュヌカルマ神)に命じてお作りになった、神が権化としてお住みになる、多くの大宮殿を持ち、九宝のように楽しい王の都、最高・偉大な地、イン神の戦争のない平和な、イン神の不滅の宝石のような、偉大な天使の都。

だそうです。いいなあ、こういうのダイスキー!

☆ ☆ ☆ ☆

今年もやります。アドベント企画第一週目です(1日遅れましたが)。
Date with a Notebookers Christmas book(半分Vr.)です。
なんだコレは、という方に説明を。
このNotebookers.jp では、今年の春頃から、ショッピングコーナーが開設されました。
ライターさんたちの手作りの蔵書票やzine、ポストカードや、チャームなどを販売しています。
わたしも出品させてもらっていまして、えー、わたしは中古本を、『タイトルは伏せて』『少々の引用で紹介して』『オマケとして、本を読む前に読んで欲しい手紙と、本を読み終わってから読んで欲しい手紙』をつけて販売しています。Blind date with a Notebookers book です。

今回は、このWEB版、本、作品を紹介しつつ、引用しつつ、本を読む前に読んで欲しい手紙部分を記事にしようと思います。
一週目は、やっぱり、クリスマスで、わたし、なので、意外性も何もありませんが。
オースターの『オーギー・レンのクリスマスストーリー』です。

スモーク&ブルーインザフェイス表紙

またコレですが、好きなのです。どうぞおつきあい下さい。

『オーギー・レンのクリスマスストーリー』これは『スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス』(新潮文庫)に収録されている短編小説で、映画『スモーク』の原作でもあります。
もともとは、ニューヨークタイムズのクリスマスの特集欄のために依頼された作品で、オースターは「おもしろい提案だと思った。新聞という、事実が記録されるはずの文書に、偽りの作品を載せるんだから」と興味を持ったそうです。

話としては…
語り手「私」はニューヨーク、ブルックリン在住の作家。行きつけのタバコ屋のオヤジ、オーギーレンから、自分が撮った写真を見ないかと持ちかけられます。
同じ時間、同じ場所を、12年間毎日撮り続けた写真の洪水が、これでもか、と迫ってきて、ゆっくりと時間をかけて見ているうちに「私」は、このタバコ屋は「時間を撮っているのだ」とわかり始めます…
そして後半が「私」がオーギーに聞いた『最高のクリスマスストーリー(それも『隅から隅まで実話って保証つきのやつ』)。

お持ちの方は、ぜひお手元に開きながら、以下、お読み頂ければと思います。

P.201 彼の仕事場はブルックリンの…
オースター作品は、ブルックリンが舞台のものが多いです。
ニューヨークのアートの中心であり、『民主主義がなんとかうまく回っていて、アメリカの多様性がよく現われている地区』だそうです。

P.201 天気やメッツやワシントンの政治家連中…
メッツ、ニューヨークメッツ、野球チームです。
(オースターは子供の頃、鉛筆を持っていなかったため、憧れのメッツの選手にサインをもらえなかったというエピソードがあったなあと思ったんですが、調べてみたらニューヨークジャイアンツのメイズ選手でした。メッツじゃなかったハハハ)(でも、この話にはオマケがあって、このエピソードを読んだオースターファンが、偶然にもメイズ元選手のご近所さんで、このことをメイズ元選手に話したところ、オースターのところにサイン入りのボールが送られてきて、50年目に偶然の物語が完結したのだそうです)

オーギーが「私」に写真を見せる場面。
「私」は、最初は、どの写真も、同じ道路、同じ建物に見えて、とまどい、またわかったフリをして、ざくざくとアルバムのページをめくっていくのですが…

P.203-204

「それじゃ速すぎる。もっとゆっくり見なくちゃわからんよ」
たしかにそのとおりだ。じっくり時間をかけて見るのでなければ、何も見えてはこない。私はもう一冊のアルバムを手に取り、もっと丹念に進むよう自分に言い聞かせた。細部にもっと注意を払い、気候の変化にも留意し、季節が移るにつれて光の角度が変わっていく様子にも気をつけた。するとじきに、車の流れの微妙な違いがわかるようになり、一日一日のリズムのようなもの(略)も予測できるようになった。(略)勤め先へ向かう通行人たち。毎朝同じ人が同じ場所を通って、オーギーのカメラの視野のなかで、それぞれの人生の一瞬を生きている。
(略)
もはや退屈ではなかった。もう最初のようにとまどってはいなかった。私にはわかったのだ。オーギーは時間を撮っているのである。自然の時間、人間の時間、その両方を。
世界のちっぽけな一隅にわが身を据え、それをわがものにすべく自分の意思を注ぎ込むこと。みずから選びとった
空間で、見張りに立ちつづけることによって。

特に何か解説することはないんですが。ただ、この箇所が好きなのです。

P.205 彼はシェークスピアの一節を暗唱しはじめた。「明日、また明日、また明日」…
シェイクスピア『マクベス』から。
こう、未来への明るいものに対してのコトバっぽく見えますが、マクベスだし、ホントはこんなカンジ。
(マクベスは、王を殺して王位を奪えと妻にそそのかされるのですが。その夫人が死んだ知らせを聞いたマクベスの台詞)

明日、また明日、また明日と、時は
小きざみな足取りで一日一日を歩み、
ついには歴史の最後の一瞬にたどりつく、
昨日という日はすべておろかな人間が塵と化す
死への道を照らしてきた。消えろ、消えろ、
つかの間の燈火! 人生は歩き回る影法師、
あわれな役者だ、舞台の上でおおげさにみえをきっても
出場が終われば消えてしまう。

やー、定点観測、その写真にふさわしい引用ではないかと。
一日一日を積み重ね、最後の一瞬にたどりつくことはわかっているので、それまでの間、『みずから選び取った空間』を愛しいと思い、記録する。

「私」は、これでオーギーの写真をすっかり気に入り、これ以来、何度も写真について話しあったと書かれていますが、オーギーがなぜこんな写真を撮るようになったのかは、話されることがなく、それを知るきっかけが、後半、クリスマスストーリーに繋がります。

P.205 先週のはじめに、ニューヨーク・タイムズの記者が私に電話をかけてきて、クリスマスの朝刊に載せる短篇を書かないかと言ってきた。
向こうのお国は、ふつーの新聞にクリスマスの何かそういう記事を載せるようです。クリスマスの名コラム『サンタクロースっているんですか』も、そのひとつ。
(これが書かれたのは、1897年の9月21日でクリスマスのコラムではなかったようです)
(ですが、読者から「あのコラムを読みたい」という要望が多かったらしく、クリスマスの時期には掲載するようになったそうです。今でも、世界中の新聞でクリスマスの時期に取り上げられているんだそうで)

P.205 ディケンズ、O・ヘンリ、その他もろもろの…
クリスマスストーリーでディケンズなら『クリスマスキャロル』とか『墓掘り男を盗み去った鬼どもの話』とか。
O・ヘンリは『賢者の贈り物』…O・ヘンリはいっぱい書いていそうな気が。

P.206 我々は店を出て、ジャックスに出かけていった。ジャックスは狭苦しく騒々しい食堂で(略)昔のドジャーズの写真が壁に並んでいる店である。我々は奥の方のテーブルに座って、食事を注文した。
ドジャーズ、今はLAドジャーズですが、1957年まではブルックリンドジャーズだったのです。
この辺りは、映画『スモーク』の続編『ブルーインザフェイス』でちょこっと触れられています。こちらもぜひ。

そんで『食事を注文した』とさらっと流されていますが。
この本に収録されている映画『スモーク』のシナリオにはもっと長く書かれていまして。
以下、引用。

ウェイターの声 何にするかね、オーギー?
オーギー (顔を上げて)ああ……(ポールの席を指して)こっちの仲間はライ麦パンのコーンビーフサンドとジンジャーエールだ。
(略)
ウェイター あんたは?
オーギー 俺かい?(間)俺も同じのにするよ。
ウェイター なあ、一つ頼みがあるんだがな。
(略)
ウェイター 今度コーンビーフサンドが二つ欲しかったら、「コーンビーフサンド二つ」って言ってくれないか。ジンジャーエールが二つ欲しかったら「ジンジャーエール二つ」って言ってくれないか。
オーギー どう違うんだ?
ウェイター 簡単なんだよ、その方が。仕事が早く済むんだよ。
オーギー (略)ああ、そうするよ、ソル。何でもあんたの言う通りにする。「コーンビーフサンド一つ」って言ってそのあとに「コーンビーフサンドもう一つ」っていうんじゃなくて、「コーンビーフサンド二つ」って言うよ。
ウェイター (とことん無表情で)ありがとう。あんたならわかってくれると思ってた。

シナリオには、この会話があるんですが、映画本編ではカットされているのです。
この無駄で、ミのないやりとりがとても好きなのですが、なんでこんなイイシーンを削ったんだ。

こういうだらだらした会話を経て、オーギーは「私」にとっておきのクリスマスストーリーを話しはじめます。
1972年の夏、オーギーの店で万引きがあり。その犯人が落としていった財布をオーギーは拾います。
その年のクリスマス、ひとりで手持ち無沙汰のオーギーは、その財布の中にあったメモの住所を尋ねて、財布を返そうとするのですが…

P.208 この婆さん、どう見ても八十は行ってたね。ひょっとして九十に届いてるかな、っていうくらいでさ。で、まず気がついたのは、婆さんの目が見えないってことだった。

お婆さんは尋ねてきたオーギーを自分の孫だと間違えます。その辺りのホントかどうなのか、というのは、ぜひ読んでみて、ご自分で感触を味わって下さい。

P.210 しばらくすると、俺は腹が減ってきた。(略)近所の店に行って、食料を調達してきた。ローストチキン、野菜スープ、ポテトサラダ、チョコレートケーキ、何やかやと買い込んできた。
そうです、アメリカではクリスマスにケンタッキーフライドチキンは食べないのです。ちゃんとローストチキンを食べるのです。

P.212

私ははっとした。もしかしたら、何もかもオーギーのでっち上げじゃないだろうか?
おい、僕をかついでいるのか、そう問いつめてみようかとも思ったが、やめにした。どうせまともな答えが返ってくるはずがない。まんまと罠にはまった私が、彼の話を信じたーー大切なのはそのことだけだ。誰か一人でも信じる人間がいる限り、本当でない物語などありはしないのだ。

や、コレも特に何も解説することはないんですが。ただ、この箇所がほんっとーに大好きなのです。
クリスマスという聖なる日の物語なのに、ほんとうなのかウソなのかわからない、むしろ、どっちでもいい、『彼の話を信じたーー大切なのはそのことだけだ。』
わたしがオースターを読んで得た、数少ないものって、多分、このあたりの ふわー っとしたものかと。

☆ ☆ ☆ ☆

と、こういった(ムダなコメントやツッコミも併せて)ことを Blind date with a Notebookers bookの『本を読む前に読んで欲しい手紙』に つらつら、と書いているのです。もう一通『本を読んだ後に読んで欲しい手紙』もあるのですが、今回は割愛しているため、タイトルが 半分Vr.となっています。
今、Notebookers Marketで、まだ一冊販売していますので、よろしければ>>Blind Date with a Notebookers Book@Treasure_Table版#03

■オマケ

オーギー・レンのクリスマス・ストーリー(柴田元幸氏の朗読)

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