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雪の降る音 森野はにみお

Posted on 30 1月 2016 by

空から大きな雪片が終わりを知らぬように降り注ぎ、人を、建物を、大地を覆い尽くす。
車のエンジン、子供のはしゃぐ声、遠くのサイレン、波音、そして人の生きてる気配までもが雪に閉じ込められて静寂に包まれる。
ふわふわと降り注ぐこの静寂こそがまさに雪の降る音…

「どうせ私はこの街に残るのだから」
今となってはあまり細かいことは覚えていないけれど、それは確か、雪がたくさん降るロマンチックな街の話だったか、あるいは雪の降る音の話をしていた時だったと思う。
僕が育った中でほんの数年ばかり住んでいた、少し遠くの街、しんしんと降る雪の音の話。
けれども僕は大きな失敗をしたらしい。
彼女はありったけの不機嫌な顔で立ち止まっていた。
「あなたは春には卒業してどこかへ行ってしまうけれど、私は一人で、この街に、雪の降らないこの街に残るのだから」
大げさだ、と僕は思った。あるいは声に出したかもしれない。
別に君はこの街にとらわれてはいない。
たった一年と少しの間、待つことが出来れば、同じ街に住む事だって、ロマンチックなその街に一緒に遊びに行く事だって出来るというのに。

冷え切った車のボンネットに黒い布を置く。
布の上に雪が乗ったらよく観察して、きれいな結晶をファインダーに入れる。
ピントは最近距離で固定し自分が前後に動いて調整。
鼻息があたるとレンズが曇り、結晶は溶けるので、息を止めてシャッターを押す。
時間がたつと結晶が崩れてくるので新しい雪を探す。
雪が積もったらいったん布を払い、同じ事を繰り返す。
氷点下の山中、単調な動作でシャッターの音だけを聞いていると心の騒がしい部分まで雪に閉ざされて、いつもは隠れている小さな部分がふと見える。
風が強くなってきて撮影を止める頃、僕は昔々の想い出とシャッター音と共に雪に封じ込まれる直前だった。

北の大地のロマンチックな街の、その近くに彼女が住んでいるらいしいと風の噂で聞いた。
結局その街に一緒に行くことは叶わなかったけれど、雪の降る音、彼女は聞いたかな。

snow

 

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Profile: ひょうひょうとしていたいのに、ふらふらしてしてしまう放浪の人。 自分でも何がしたいのかいまいちわからない。 ただ写真を撮るのと昔話が好きです。

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