2016年◎アドベント1週目〜聖母マリア、あなたは神のあこがれをいれる美しい器でした〜『受胎告知』を見てみよう

Posted on 30 11月 2016 by

母マリア、あなたは神のあこがれをいれる美しい器でした(リルケの言葉)

えー、12月もそろそろ、というころ。Notebookersの皆様におかれては、三冊目の手帳はどれにしよう、とか、もうそろそろ2018年の手帳を見込んでいる、とか、そういう日々をお過ごしでしょうか。
わたしは、手帳総選挙にて、ポスタルコの手帳と運命の出会いを果たし、2018年の手帳はコレだ、と、そういうアレです。
今回すごく、あー、手帳選挙参加して良かったーと思ったのは、トーンリバーサルの手帳のお話を伺えたことでした。本来、視力の弱い方のために作られたそうで、だから、文字を大きく書けるようにあのサイズなのだなー、とすごく納得しました。関東の手帳選挙開催時にテレビの取材が(トーンリバーサルのために)きたそうで、これでもっと広がって、視力の弱い方も、手帳を使う楽しみ、便利さ、などを一緒に「わーい」とやっていけたらいいなあと思いました。
あと、タワレコ手帳やバンギャル手帳など、手帳世界は広い。
そして、トラベラーズミーティングの記事、読んで下さってありがとうございます。

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いつもと逆だなあ。前振りは前振りとして。

2016年もアドベント企画、やってみようと思います。
以前も4週間連続で記事を書きましたが。
もう一度、アドベントの説明を。

アドベント、具体的には何かというと、キリストの生誕を待つ、その期間のことです。
12月24日に一番近い日曜日から逆算して4週間。
今年は、第1週:本日11月27日、第2週:12月4日、第3週:12月11日、第4週:12月18日となります。
(あれ、今年は25日が日曜日なのだな)

アドベント、もともとはラテン語で『アドベントゥス』、意味は『キリストの到来』です。
日本では、『待降節』と呼ばれています(が、キリスト教の宗派によってビミョウに違ったり違わなかったり)

このそれぞれの週の日曜日に、ロウソクを1本ずつ灯していきます。
そのロウソク立てをアドベントクランツといい、モミの枝や、ひいらぎ、ポインセチアなどで飾られています。
4本目には、クリスマス、ということで。

教会や、教会学校では、アドベント1週目から、順番にキリスト生誕劇のお人形(絵の場合もアリ)が飾られます。
一週目は『受胎告知』
二週目が『羊飼いへのお告げ』
三週目が『東方の三賢人』
四週目が『キリストの誕生』
となっています。
今年は、この生誕劇を順番に、えー、美術とかそういうのを見ていきたいなー、と。

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アドベント一週目は、乙女マリアが天使ガブリエルに「あなたは神の子を宿します」と告げられるシーンです。
聖書ではこうなっています。

六か月目に、御使ガブリエルが、神からつかわされて、ナザレというガリラヤの町の一処女のもとにきた。
この処女はダビデ家の出であるヨセフという人のいいなづけになっていて、名をマリヤといった。御使がマリヤのところにきて言った、「恵まれた女よ、おめでとう、主があなたと共におられます」。この言葉にマリヤはひどく胸騒ぎがして、このあいさつはなんの事であろうかと、思いめぐらしていた。すると御使が言った。「恐れるな、マリヤよ、あなはた神から恵みをいただいているのです。見よ、あなたはみごもって男の子を産むでしょう。その子をイエスと名づけなさい。彼は大いなる者となり、いと高き者の子と、となえられるでしょう(略)」
「どうして、そんな事があり得ましょうか。わたしにはまだ夫がありませんのに。」御使が答えて言った。「聖霊があなたに臨み、いと高き者の力があなたをおおうでしょう。それゆえに、生まれでる子は聖なるものであり、神の子ととなえられるでしょう(略)」そこでマリヤが言った。「わたしは主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますように」
ルカによる福音書1章26-28

わたしが一番好きな『受胎告知』から。
レオナルド・ダ・ヴィンチ 1472-1475年

受胎告知*ダヴィンチ

惚れ惚れする。カンペキ。


まず、この絵は(というか全般的に『受胎告知』の絵は)、季節としては春先、もっというと3月25日くらい、春分の頃なんだそうです。
なぜかというと、12月25日にキリストが生まれたその9か月前、という時間設定のようです。
なので『受胎告知』は、冬が終わり、春の訪れを喜ぶ、という、そういう絵でもあるらしい。
天使ガブリエルがいる庭部分なのですが、ここに咲いている花は、早春に咲く花が描かれているそうです。
受胎告知のシーンは、マリアの私室や、修道院・僧院内、その庭で描かれることが多いです。

このお告げをもたらした、天使ガブリエルですが。
(神の)言葉を告げる、という役目を持つ、とか、あと、旧約聖書の時代から預言者や英雄の誕生を告げにひとの子の世界へ降りてきていて、何かとお役目の多い天使のようです。
あと、イスラム教でもジブリールという名前で、やはりお告げ、言葉をもたらす天使のようです。

受胎告知の時に、ガブリエルは(だいたい)百合の花、もしくは百合をいただく笏杖を持っています。
百合は純潔、清らかさの象徴で聖母の花、天国の花、とされています。

一方、マリアの方ですが。
基本、赤と青のローブを着ていたら(宗教画であれば)ほぼ聖母マリアだと思っていいようです。
19世紀前半まで、青の顔料はラピスラズリを砕いて作っていました。
とても貴重なものだったので、聖母のローブ(くらい)にしか使えない状態だったそうです。
受胎告知のマリアは(たいてい)本を読んでいます。これも聖書で、開いている箇所も決まっているそうです。
イザヤ書の
みよ、乙女がみごもり子を産む。その名をインマヌエルと呼ぶ。
というページだそうです。

あと「マリアよりガブリエルの方が美形」とか何とか、よく目にするのですが。
ダヴィンチ先生がそっち趣味だったから、とか、あんまりマリアを美しく描くと、見た信者がけしからんことを考えるとダメだから、とか、えー、諸説あるようです。

これだけ「これはこう! これはコレ!」と決まっているの(形式美だなあ)もすごいなあと思うのですが、それでも別の画家が描くと全然別のものになる、というのは、やっぱりオモシロい。

次の一枚。アンブローゾ・ロレンツェッティ 1344年

受胎告知:ロレンツェッティ

ガブリエル、赤い衣なのは何か意味があるのかなー


これは修道院や僧院の中でのお告げのシーンのようです。
やはり、左にガブリエルがいて、右にマリアがいるのですが。
えー、ガブリエルが持っているのが百合の花ではありません。シュロだそうです。こういう絵もあるようです。
作者のアンブローゾ・ロレンツェッティは、イタリア、シエナという街の画家で。
百合は、シエナのライバル都市フィレンツェの花だったので、敢えて百合を持たせず、シュロを持たせた、とか。
他、オリーブの枝を持たせた絵もあるようです。
オリーブは『神と人の和解』の象徴だそうで。へー。
(あと、きっと意味があるんでしょうが、ガブリエルがものすっごい大きな剣を佩いている。気になる)

一方、マリアは、やっぱり本を開いています。
で、ダヴィンチ先生の絵とは違い、交叉した手を胸に当てています。
これは謙虚さを表しているんだそうです。

三枚目。エル・グレコの『受胎告知』1590-1603年

エルグレコ:受胎告知

このガブリエルは黄色の衣


ダヴィンチ先生、ロレンツェッティの絵とは違って、なんていうか、動的、というか。そういう力強さを感じる『受胎告知』
夜に、光につつまれてガブリエルがマリアのもとを訪れた、というそういう絵だそうです。
あと、これはガブリエルの方が上に位置して、マリアが見上げているという構図で、降臨、という感じでしょうか。
背景が黒い雲?や光で、かなり抽象的というか、「ここ!」という場所ではないところがいいなあ。
マリアが右手を掲げているのは『受け入れる』の意味。
神の子を宿す、キリストを生むことを告げられ、その言葉を『受け入れます』の所作だそうです。
(ダヴィンチ先生のマリアの絵は左手を掲げているんですが、これも同じかな…、何か、含みがあるのかな…)

他の『受胎告知』の絵でもそうなのですが、マリアの表情は、ガブリエルのお告げを聞いて「きゃー、嬉しいー!」というのではなく、驚き、ためらいなどの憂い顔をして、それでも「受け入れます」という意思表示をしています。
ダヴィンチ先生のマリアは、かなり真顔なんですが、これもきっとルネサンス的な意味があるんだろうなあ。

エル・グレコの『受胎告知』、なんと大原美術館所蔵。
日本で見ることができる受胎告知です。

四枚目。アントネッロ・ダ・メッシーナ 1470年代半ば

ダ・メッシーナ:受胎告知

これは本当に好き。この構図で『受胎告知』を表現するってすごい。


これもすごく好きなのです。タイトルは『受胎告知のマリア』
描かれているのはマリアひとりで、ガブリエルがいません。捧げられる百合の花もなく、背景も、野外なのか、修道院なのか、わかりません。
ただ、お約束の、右手を掲げて神の子の母になることを受け入れ、本も開いています。
これは、鑑賞者が天使の立場になって、見る絵、なんだそうです。
ガブリエルの視点を実感できる絵!
マリアが目を逸らしているところが、なんというか、ためらい、困惑、そういう感情がものすごく、「そうだろうなあ」と思ってしまう絵です。

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と、こういう美術からクリスマスを楽しもう、という記事をあと三週書けたらいいなあと企んでいます。
よろしくおつきあい下さいませ。
二週目は『羊飼いへのお告げ』です。

□□おまけ

もう休んだらいい。長い時間かけて
ずいぶん興奮したのだから。

薄明、そうして宵闇。部屋の中へ入ってきた
ホタルがあちこちで光っている。あっちでもこっちでも。
開け放った窓を満たしているのは、こってりした夏の甘み。
(略)
夏の夜ひと晩掛けて、君のために歌ってあげたのだから
最後はわたしの勝ちになる。世界と言えども、これほど長続きする
夢想を君に与えることなどできやしないよ。

君は自分に、わたしを愛するよう学ばせる必要がある。人間は
静けさと闇を愛することを、学ばなくてはならないのだよ。

ルイース・グルック『子守唄』訳栩木伸明



◎○おまけ2 カラヴァッジオの受胎告知

カラヴァッジオ:受胎告知

これも惚れ惚れするなあ。いいな。




参考
『聖母マリアの美術』諸川春樹+利倉隆(美術出版社)
『ルネサンス絵画入門』宮下規久朗(幻冬舎)
『マリアが語り遺したこと』コルム・トビーン 訳栩木伸明(新潮クレスト)

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Profile: あなたと一緒に歩く時は、ぼくはいつもボタンに花をつけているような感じがします。

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