先日、2017年に見に行った美術展の記事を書いたのですが。
ノートを見返していると、映画「謎の天才画家 ヒエロニムスボス」のページで、ああ、こういうのもあったなあと思い出しました。
『快楽の園』から、ひとの姿を消すと── と、コンピュータで処理した画像を見たのですが。
残された背景から、次の世代のクリエイターが新しい作品を作る、その土台となるというようなことを言っていて。
その、植物とか動物とか道具だけが残された、ひとの姿がない『快楽の園』
そこからまた『何かを作る』
二度目の天地創造だなあと思いました。
前振り終わり。
ムダに注釈の多い星座紹介、二月の星座、みずがめ座の紹介です。
(以前の記事はコチラ>>4月5月の牡羊座と牡牛座、6月のふたご座、7月のかに座、8月の獅子座、9月の乙女座、10月と11月のてんびん座&いて座、11月のさそり座 1月のやぎ座があります。よろしくドウゾー)
みずがめ座、秋、南の空に見える星座です。
目立つ明るい星はありませんが、星のひとつひとつの名前に、古代の沙漠の民の祈りがこめられている、実にわたし好みの星座であります。
ギリシャ神話では、どういうエピソードなのか、というと。
えー、ギリシャの神々が住むオリンポス山、天界で、神酒(※1)のお酌係の女神へべ(※2)がヘラクレスと結婚して、寿退職となりました。
じゃー、誰がお酌するんだ、という話になり。その時、トロイ王家の王子ガニメデスが、どんな美女よりも美しいと評判になっていて、では、彼にお酌係してもらおう、と、最高神ゼウスが鷲に変身して、トロイからさらってきたんだ(※3)そうです。
神々はガニメデスに永遠の命をさずけ、オリンポスでのお酌係に任命しました。
そして、トロイ王家には不死の神馬(※4)を与えたそうです。そんでガニメデスの姿がいつも見えるようにと、星座にして天に上げたと伝えられています。
また、女神へべの退職の別の理由として、ヘベが、すってんころりと転んでしまい、やる気をなくし「もうお酌係なんてイヤよ」と言い出して(※5)、その後任者としてガニメデスをさらってきた、という説もあるようです。
女神へべの退職の理由はともかくとして。
わたしは、なんでお酌係なのに『みずがめ』なんだろうと思っていました。
そんで、今回、改めて調べてみたら、えー、ものすごくよくわかりました。
もともとは、アラビアの沙漠の民が作った星座で、もちろん沙漠では水がとても大切なので、その願いがみずがめを天にかかげたそうです。
みずがめ座、もともとは、古代メソポタミアでつくられた星座だそうです。
原名 アクアリウス、水を持つ男、水を運ぶ男の意味。
古代の星図では、水が流れ出る壺を抱えた男の図像が、原型として見られるようです。
この水は、冬から春にかけての降雨の増大と河川の氾濫の象徴でもあります。
(そして、このあふれる水を、後述のうお座の口が受けている)
上の星図もそうですが、ぜんぜん天下の美少年の姿ではありません。
そんで、お酒もぜんぜん関係ありません。
そして、みずがめ座を構成する星なんですが、これ、ひとつひとつの名前が、沙漠の民の祈りの結晶のようでした。
たくさんあるんですが、そのいくつかを……
ε アルバリ 呑み込む者の守り星(呑み込む者=大食漢だそうです)
β サダルスウド 幸運の中の幸運
α サダルメリク 王の守り星 王の幸運の星
γ サダクビア かくれがの守り星 テントの幸運
みずがめ座の γ 星 サダクビアが、太陽と一緒にのぼるようになると春になり、それまで地中にいた虫や蛇が喜んで地上に出てくるので、かくれが(に住まうものの)幸運、守り星、ということらしい…
また、β 星 サダルスウドは、この星の近くに太陽が来ると、雨期になるそうで、これもまた沙漠の民には、嬉しい季節の訪れの合図となるんだそうです。
幸運の中の幸運、という最上級のおめでたい名前をつけて雨期の訪れを喜ぶ、というのもすごくわかるなあ。
(そして、この星座がギリシャに伝わり、「瓶をかついでいるのかー、じゃー、トロイの美少年のお酌係、あの話に絡ませよー」くらいの感じでみずがめ座になったんじゃないかと)
わたしは、沙漠というと、熱、熱さが思い浮かぶので、どっちかというと、沙漠の民にとって、冬は良い季節だと思っていたんですが、そうではなくて、やっぱり春は待ち遠しい季節だと知り、そうなのかー、面白いなあと改めて思いました。
みずがめ座の詩があったので、紹介します。
その星々がのぼるとき 雨は降りはじむ
沈むとき 不健康なる風は吹きやみ
実は豊かに露はしたたるペルシアの天文学者 アブド・アッ=ラフマン・アッ=スーフィーの詩
そして、3月の星座、うお座です。
秋の南の空に見える、二匹の魚がリボンで結ばれた形の星座です。
二匹の魚はそれぞれ、北の魚と西の魚、と呼ばれていて、これは美の女神アフロディテとその息子エロスが変身した姿だそうで。
ギリシャ神話としては──
やぎ座のエピソードでも書きましたが、エジプトのナイル河(※6)のほとりで、ギリシャの神々が宴会をしているとき。
テュポンという怪物が神々を襲いました。
この時、アフロディテとエロスも宴会に出席していました。
アフロディテは自分の帯を解いて、自分と息子を結びつけ、魚に変身して河へ飛び込びました。
その姿を天にあげたと言われています。
また、みずがめ座の下(※7)にみなみのうお座という星座があります。
これがアフロディテだという説もあるそうです。ちょうど、みずがめ座のみずがめから落ちる水を、魚が口をあけて受けている、という図です。
このみなみのうお座についても、ちょっと紹介しようと思います(※8)。
この星座には、フォーマルハウト(※9)が入っています。
このフォーマルハウトという星はアラビア語で「魚の口」という意味で、秋の空に見える唯一の一等星です。
そんで中国語では(これがカッコいいんだ)長安の北門の名前、北落師門(ほくらくしもん)(※10)と呼ばれているそうです。
日本では、秋に ぽっかり 空いた南の空にたったひとつ輝くので、南のひとつ星と呼ばれていたそうです。
秋の夜空に、みずがめ座、うお座、みなみのうお座、と、水関係の星座が多いのは、太陽がこれらの星座の付近を通る頃、中近東ではちょうど雨期だったためと言われているそうです。
古代のアラビアあたりの沙漠の民が、星空を見上げて、みずがめ座が見えるようになった! 雨期が来るぞー! という季節の目印であり、合図であり。本当に待ち望んだ季節だったのだろうなあと思います。
何千年も前の沙漠のひとは、そういう思いで星座を見ていたのか、と、思いを馳せつつ、今年の秋、フォーマルハウトを待ちたいです。
(ムダに注釈の多い)12星座の紹介記事がこれで完了になります。
読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
まさかの『てんびん座の次はさそり座なのにいて座の記事を書いてしまう」とか、ムダに力の入ったおとめ座のベルニーニ先生のプロセルピナの略奪画像4枚など、ありましたが、楽しかったです。
4月から、何かまた1か月に1回テーマを決めて記事をあげようと思っています。改めてよろしくお願いします。
==以下 注釈==
※1:神の酒、ネクタルといいます。ネクターというジュースがありますが、この名前は、このネクタルからとったようです。
※2:ゼウスとヘラの娘。こちらの記事で、ヘラクレスの紹介をしていますが、あれだけ嫌っていたヘラクレスに、ヘラ、よく娘と結婚させる気になったなあ。
※3:コレッジョの「ガニメデス」
※4:黄金の葡萄の樹を与えたという説もあり。えー、ギリシャ神話というのは、その土地土地でまとめられたもので「これが本家本元!」というものがありません。どんなにいろんな説があってもそれが『起源』なのです。
イタリアの作家、ロベルト カラッソが「(ギリシャ神話は)異説こそ起源である」と言っていて、これがすごくいいなあと、ずーーーーーっと思っています。どんなにいろんなパターンがあっても、それこそが「オリジナル」なのです。すばらしー。
※5:なんだかすごくよくわかる。やる気なくすよね。
※6:ユフラテス川のほとりをふたりで散歩していたら、テュポンが襲ってきたという説もあり。なんでギリシャの神様がメソポタミアの川の付近まで出かけているのか、とか、テュポンもなんで(敵対戦力として脅威でも何でもなさそうな)この二人を、わざわざ遠くメソポタミアまで追って行ったのか、などと、そういうことは言ってはいけない。
※7:南とも言う。
※8:フォーマルハウトの話をしたいから。
※9:とても好きな星のひとつなのです。
※10:なんともさびしげで良い響きだ。良い名前なのですが、実在したかどうかも、よくわかっていないそうです。(中国では、この星があまりよく見えないときは軍が滅びると言われていたとか)
参考にした本
星座の伝説 大図鑑(PHP研究所)
四季の星座図鑑(ポプラ社)
続 星と伝説(中興文庫)
星座神話と星座観察(誠文堂新光社)
星の名前のはじまり(誠文堂新光社)
星座神話の起源(誠文堂新光社)
宙ノ名前(光琳社出版)
その他ギリシャ神話の本などもイロイロ……
■おまけ
タイトルの『北落の〜』は李白の詩から
狂風古月(くらきつき)を吹き 密かに弄す章華台
北落の明星光彩を動かし 南征の猛将は雷雲に如(に)たり
司馬将軍の歌