0.はじめに
俳句好きで、NOTEBOOKERSなら、「俳句+文具」とか考えねばならぬと、手持ちの歳時記を読んでみたところ、NOTEBOOKERS的(以下NB的)とはほど遠いことがわかってしまったので、「じゃあどうすればいい?」を不定期で考えることにして。
1.俳句拾い報告
今回は『日本の詩歌 俳句集』中央公論社 1989.7.25 新訂3版 から。
この本には明治後期から昭和中期まで、47人の俳人の4,000余句が納められていました。そのなかから、前回同様、「NB的季語、および事物」(Nb+俳句1の記事参照)を、「事物」の五十音順にまとめました。
凡例:|事物|季語|季節|分類|俳句|作者|ページ数| です。
(季節と、分類の前の数字は、ソート用の番号ですので、お気になさらないで)
暗室|きりぎりす| 3秋| 6動物|暗室や心得たりときりぎりす| 夏目漱石| 13
椅子| 月| 3秋| 2天文| 月光に一つの椅子を置きかふる| 橋本多佳子| 225
鉛筆| 露| 3秋| 2天文| 鉛筆で指さす露の山脈を| 加藤楸邨| 323
汽車| 夏の月| 2夏| 2天文| なほ北に行く汽車とまり夏の月| 中村汀女| 248
毛糸| 毛糸| 4冬| 4生活| 久方の空いろの毛糸編んでをり| 久保田万太郎| 143
珈琲| 夏の夕| 2夏| 1時候| 珈琲や夏のゆふぐれながかりき| 日野草城| 272
書| 春さき| 1春| 1時候| 春先に指のかげ置く書をひらく| 藤後左右| 371
書| 良夜| 3秋| 2天文| 人それぞれ書を読んでゐる良夜かな| 山口青邨| 164
書庫| 足袋| 4冬| 4生活| 日々の足袋穢しるし書庫を守る| 竹下しづの女| 126
焚火| 寒月| 4冬| 2天文| 寒月に焚火ひとひらづゝのぼる| 橋本多佳子| 228
焚火| 焚火| 4冬| 4生活| 隆々と一流木の焚火かな| 秋元不死男| 286
焚火| 焚火| 4冬| 4生活| 道暮れぬ焚火明りにあひしより| 中村汀女| 249
旅| 花火| 2夏| 4生活| ねむりても旅の花火の胸にひらく| 大野林火| 309
旅| 蛇苺| 2夏| 7植物| 蛇苺 遠く旅ゆく人のあり| 富沢赤黄男| 291
旅| -| しんしんと肺碧きまで海のたび| 篠原鳳作| 350
旅| -| 満天の星に旅ゆくマストあり| 篠原鳳作| 350
旅人| 落葉| 3秋| 7植物| 木曽路ゆく我も旅人散る木の葉| 臼田亜浪| 51
旅人| 落葉| 3秋| 7植物| 旅人は休まずありく落葉の香| 前田普羅| 92
沈思| 冬木| 4冬| 7植物| 沈思より起てば冬木の怖ろしき| 石井露月| 37
机| うそ寒| 3秋| 1時候| うそ寒の身をおしつける机かな| 渡辺水巴| 67
机| 朝顔| 3秋| 7植物| 朝寒の顔を揃へし机かな| 夏目漱石| 13
机| 元日| 5新年| 1時候| 元日の机によりて眠りけり| 原石鼎| 118
手紙| -| ねそべつて書いて居る手紙を鶏に覗かれる| 尾崎放哉| 106
トランプ| 薔薇| 2夏| 7植物| トランプを投げしごと壺の薔薇くづれ| 渡辺水巴| 79
トランプ| 狐| 4冬| 6動物| 母子のトランプ狐啼く夜なり| 橋本多佳子| 226
夏書| 夏書| 2夏| 5行事| 今年より夏書せんとぞ思ひ立つ| 夏目漱石| 11
波のり| 波のり| 2夏| 4生活| 波のりやかへりの波にぱつと遇ふ| 藤後左右| 370
日記| 埋火| 4冬| 4生活| 偽書花屋日記読む火をうづめけり| 久保田万太郎| 149
日記| 炭| 4冬| 4生活| 花屋日記伏せて炭つぐ薄日かな| 渡辺水巴| 78
文机| 植田| 2夏| 3地理| 文机に坐れば植田淡く見ゆ| 山口青邨| 168
史| 夜長| 3秋| 1時候| 泣き入るや史読み断ちて灯夜長| 松根東洋城| 46
頁| 逝く年| 4冬| 1時候| 逝く年のわが読む頁限りなし| 山口青邨| 170
ペンだこ| -| 雑布しぼるペンだこが白たたけた手だ| 尾崎放哉| 107
本| 露| 3秋| 2天文| 本を積み庭草高く露けしや| 山口青邨| 175
マッチ| 霧| 3秋| 2天文| 一本のマッチをすれば湖は霧| 富沢赤黄男| 290
臨書| 年の瀬| 4冬| 1時候| 年の瀬の蠅吹き飛ばす臨書人| 小沢碧童| 64
やはり、少ない。
が、あまり大量でも拾うのが大変だから、まあいいか。(正岡子規さんは病をおして、10万2千余句を徹底分類したんだよ。すごいんだよ 『分類俳句全集』昭和3-4年・アルス刊)
ほぼ日weeksMEGAの豊富なノートに。
2.ノートブッカーズの人となり?
俳句を拾っていると、季語も事物もノートブッカーズ的ではないけれども
「この感じはノートブッカーズっぽいんじゃないか」という句がある。
それらを捨てるに忍びなく、こちらにまとめてみた。
長閑| 1春| 1時候| のどかさに寝てしまいけり草の上| 松根東洋城| 43
春| 1春| 1時候| 手をとめて春を惜しめりタイピスト| 日野草城| 269
余寒| 1春| 1時候| 世を恋うて人を恐るる余寒かな| 村上鬼城| 17
花| 1春| 7植物| チチポポと鼓打たうよ花月夜| 松本たかし| 343
清水| 2夏| 3地理| 百里来し人の如くに清水見る| 細見綾子| 358
麻服| 2夏| 4生活| 麻の服風はまだらに吹くをおぼゆ| 篠原梵| 375
籐寝椅子| 2夏| 4生活| 一碧の水平線へ籐寝椅子| 篠原鳳作| 350
夏帽| 2夏| 4生活| 夏帽や職場の友は職場ぎり| 安住敦| 367
河鹿| 2夏| 6動物| 畳に河鹿はなしほうほうと言ふて君ら| 葛谷六花| 39
筍・空豆| 2夏 .7植物| たけのこ煮、そらまめうでて、さてそこで| 久保田万太郎| 148
踊| 3秋| 4生活| 通り雨踊り通して晴れにけり| 松本たかし| 337
朝顔| 3秋| 7植物| あさがほをだまつて蒔いてをりしかな| 安住敦| 366
朝顔| 3秋| 7植物| 北斗ありし空や朝顔水色に| 渡辺水巴| 77
霜| 4冬| 2天文| パン種の生きてふくらむ夜の霜| 加藤楸邨| 322
埋火(うずみび)| 4冬| 4生活| 孤り棲む埋火の美のきはまれり| 竹下しづの女| 128
日向ぼこ| 4冬| 4生活| 雑音に耳遊ばせて日向ぼこ| 竹下しづの女| 125
雪合羽| 4冬| 4生活| 火に寄れば皆旅人や雪合羽| 細見綾子| 361
クリスマス| 4冬| 5行事| へろへろとワンタンすするクリスマス| 秋元不死男| 283
一日のポケットから何もかもつかみだした| 栗林一石路| 195
食べる物はあつて酔ふ物もあつて雑草の雨| 種田山頭火| 82
指ほそく抛物線を掴むかな| 富沢赤黄男| 292
3.ノートブッカーズっぽさとは?
Q:ノートブッカーズっぽさって何?
A:実例があれば、その都度判断できるけど、「定義」からは常に逃れてしまうものだよ。
私が感じるNBっぽさとは、たとえばこれまでに読んできた記事の記憶、一昨年のTNMで出会った方たちとの思い出、タカヤさんの印象、部活のラインナップ、タグの言葉なんかの総体としてのイメージのブレンドなんだと思うな。
草の上で寝てしまったり、仕事の途中にすぎゆく春を感じてみたり、世界って素晴らしいけどなんとなく人見知りだったり、籐椅子に寝そべってのんびりと水平線を眺めて一日を終えたり、畳に蛙を放しておもしろがってみたり、雨の間中踊っていたり、独りでいる時間に浸ったり、クリスマスの夜に、へろへろとワンタンをすすっていたり。そんなノートブッカーに、私はなりたい。
これは人によって違うんだと思う。
「この句は要らない」「この句は絶対入れとかないと!」という意見は、NB記者の皆様、NB読者の方々の数だけあっていいんだと思うので、ご意見熱烈歓迎どしどしね。(なにしろ、このタイプの句を拾うには、ただひたすら「句に出会う」しかないわけですから)
今回はこのへんで。NB歳時記にむけて、これからも俳句を拾っていきませう。
次回は「文具俳句」を集めてみたいな。
おまけ「象」の俳句集
うららかや絵本の象が立ちあがる | 藤井寿江子 |
二月の雲象かへざる寂しさよ | 橋本多佳子 |
ナウマン象一頭分の花の冷 | 高野ムツオ |
春や佐保路普賢の象に乗る夢も | 河原枇杷男 |
象の爪を磨いている春の夜の嵐 | 斎藤冬海 |
音もなく象が膝折る日永かな | 角 和 |
象の背にキリンの首に黄沙降る | 石川天虫 |
春風をあふぎ駘蕩象の耳 | 山口青邨 |
遠足にとり囲まれて象孤独 | 野中亮介 |
象の鼻吹きたるやうなシャボン玉 | 石河義介 |
試験果つ象は鼻から水噴いて | 田口彌生 |
涅槃図や身を皺にして象泣ける | 橋本 榮治 |
象よりも大きく涅槃し給へり | 有馬籌子 |
象の背をころがる水や花祭 | 石田由美枝 |
船にのせて象はかりけり揚雲雀 | 龍岡晋 |
花吹雪象はいよいよ目を細め | 田中敦子 |
涼しさや象を見おろす天守閣 | 仙田洋子 |
はるかなる君が背にわれ夏の象 | 五島エミ |
炎天の原型として象あゆむ | 奥坂まや |
南風や扉よりも重く象の耳 | 有馬朗人 |
父の日や暗くて広き象の背な | 下山宏子 |
ヨット行く湖底に眠るナウマン象 | 安井信朗 |
象みずから青草かずき人を見る | 西東三鬼 |
象使ひ白き横眼を緑蔭に | 白泉 |
やや寒の象に曳かるる足鎖 | 秋元不死男 |
象も耳立てゝ聞くかや秋の風 | 永井荷風 |
象の頭に小石のつまる天の川 | 大石雄鬼 |
象の餌のゆたかに積まれ敗戦忌 | 白岩てい子 |
音楽のわかる象の尾草の花 | 後藤比奈夫 |
芭蕉の葉象のごとくにゆらぎけり | 安田蚊杖 |
象が曳く鎖の音の寒さかな | 柊 愁生 |
サーカスの象吊る港十二月 | 野溝サワ子 |
節分や寒気の熊と温気の象 | 秋元不死男 |
はつふゆや象のかたちに帽子置き | 上田日差子 |
恋人に近づく冬の象の鼻 | 皆吉司 |
冬を耐ゆ象は全身皺にして | 多賀庫彦 |
荒星や老いたる象のやうな島 | 夏井いつき |
象の背の上の現世や寒の雨 | 高野ムツオ |
伊吹嶺や風の象に冬の雲 | 辻 恵美子 |
冬日の象べつの日向にわれらをり | 桜井博道 |
象の貌に涙の迹や冬旱 | 貞弘 衛 |
象を呑む蛇の話や冬籠 | 高野ムツオ |
正月の空の青さに象匂ふ | 光田幸代 |
初春の風にひらくよ象の耳 | 原 和子 |
初明り象あるもの眼に見えそめ | 小川双々子 |
ねむれずに象のしわなど考える | 阿部青鞋 |
受胎して象のあくびを眩しみぬ | 鎌倉佐弓 |
電車ゴツンとアフリカ象が滅ぶ日か | 高野ムツオ |
たくさんのかなしみあつめ象歩く | 森 武司 |
約束の眼鏡のなかに象をみた | 前田圭衛子 |
灰色の象のかたちを見にゆかむ | 津沢マサ子 |